えくそしす島

嘆きのピエタのえくそしす島のレビュー・感想・評価

嘆きのピエタ(2012年製作の映画)
3.9
【ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作品】

「パラサイト」を筆頭に世界を席巻した韓国映画だが、実は三大国際映画祭(ヴェネツィア・カンヌ・ベルリン)の最高賞を受賞したのは「嘆きのピエタ」が初めてだった。

出資スポンサー無し、キム・ギドク監督の自費で製作、スタッフやキャストは原則ノーギャラ・興行成績に応じた出来高払い、という方式で低予算製作を成立させた。

タイトルにある「ピエタ」とは聖母マリアがイエスの亡骸を抱く彫刻や絵のこと。それを想像しながら観るとより深く楽しめる。

監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク

あらすじ
幼い頃に母親に捨てられ「愛情が欠落している」男ガンド(吉川晃司似)は、借金の取り立てを生業としていた。そんなある日、母親を名乗る女性が現れるのだが…

ガンドは「心」を失っている

その為、借金の取り立て方は無慈悲の一言。返せない人からどう取り立てるのか。
描写自体はあまり見せないが、その光景がありありと頭に浮かぶ。

しかし、鬼才キム・ギドクの真骨頂は外面ではなく、人間の内面のエグさにある。
他作にも言えるが、人間の「光と闇と憎悪と愛」を独自の解釈(マジ変態)で観る側に突き付けてくる。そこから深く、より深く、やがて「絶望の深淵」へと辿り着く。

胸糞や鬱作品は数あれどキム・ギドク(マジ変態)は毛色が違う。

歪んだ物語や描写が多い為、ハッキリと好き嫌いが分かれる。しかし、好きな人にはこの監督の作品でしか満足が出来なくなる程の魅力がある。

ガンドはこれまで「愛を知らなかった」
それ故、息を吸うように非人道的な仕打ちを続けてこれた。そんな男がもし、「慈愛を知ってしまった」としたら。

これは
“暴力と悲劇で包み込んだ残酷な愛の物語“

2020年12月に新型コロナの合併症により59歳で逝去したキム・ギドク。

この歪みつつも魅力的な人間ドラマはもう見られない