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嘆きのピエタのコウのレビュー・感想・評価

嘆きのピエタ(2012年製作の映画)
3.7
鑑賞したのはもう随分と前なのですが、過去に観たギドク監督の映画の中で唯一美しいと感じた作品です。

天涯孤独で血も涙も無い高利貸しの男・ガンドの前に突然彼を捨てた母だという謎の女・ミソンが現れる。
最初は半信半疑で女を邪険に扱うガンドだったが、女の無償の愛情の前に次第に本当の母ではないかと信じ、失っていた愛を取り戻すかのように慕いはじめる。
そんなガンドがすっかり改心し、取り立て屋の仕事から足を洗おうとした矢先、ミソンが突然消えてしまう。
ミソンの身を案じるガンドは必死に行方を捜すが、実は裏ではミソンのガンドへの復讐のシナリオが進行中だった…。

この映画は一見復讐をテーマにした作品なんですが、『母性』を武器に対象に近づく復讐方法がとにかく斬新でしたし、報復だけにとどまらない悲しみや憐れみ、贖罪の心なども奥深く込められていて、鑑賞後はノスタルジックで何とも言えない寂しい気分にさせてくれます。

寓話性とバイオレンスが混ざり合った印象的な名作。

『母親』のミソンを演じたチョ・ミンスの謎めいた妖艶な美しさと『息子』のガヨンを演じたイ・ジョンジンの空虚な暴力性、この二人の演技が素晴らしいのは疑いようがありません。

キム・ギドク監督の作品はとかく突飛で奇をてらう演出が多く、どうしても好き嫌いが分かれる監督には違いありません。この作品もきっと賛否両論の映画なのでしょうが、ギドク作品の中ではこの「嘆きのピエタ」だけは不思議と美しい映画としての後味をいまだに心に残し続けてくれています。
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