しまうま

ワールド・ウォーZのしまうまのレビュー・感想・評価

ワールド・ウォーZ(2013年製作の映画)
3.5
"「ワールド・ウォー・Z」は ゾンビとブラピが走るだけ"
 『ゾンビとブラピが走るだけ』より by webnokusoyaro


 ゾンビ映画としては、意外と言っては失礼かもしれないけど、けっこう出来の良いほうだと思う。
 起承転結がしっかりしている(ゾンビ映画において、このシンプルな物語のつくりは大事だと思う)なかで、ゾンビの「こいつらに襲われたらヤバイ」感が出てる。これでゾンビが弱っちろい見た目だったら緊迫感もないから台無しになるところだけど、造形に怖い雰囲気があるから、ゾンビ映画特有のスリリングさを楽しむことができる。
 ※これが『ロンドンゾンビ紀行』や『ショーン・オブ・ザ・デッド』みたいなコミカルゾンビものであれば、そんな緊迫感なくてもいいけど。

 ゆっくり動かないで思い切り走るゾンビというのは記憶する限りは『ドーン・オブ・ザ・デッド』が初めてな気はするけど、やっぱり奴らがダッシュすることで人間側のアドバンテージが減るのは見ていて焦るし、今回ゾンビを走らせたのは成功だと思う。

 ゾンビものとしては珍しいくらいに世界を巡るのも、主演ブラッド・ピットが国連関係者にして、過去に紛争制圧に貢献した有力者という設定は無理がなくて良い塩梅の主人公補正だと思う。ここまで場面転換してもそれぞれの場面で大勢の人たちがゾンビ奇襲にリアクションする絵がとれたのは、予算があるからできたことと想像できるし、先述したそもそものゾンビの造形がリアルなのも、予算あってのことだと思うと、大衆向けでブラピ主演のゾンビ映画を作る理由もあると言えそうだ。
 

 この場を借りて、この映画を見るきっかけを作ってくれたラッパーのwebnokusoyaroさんにお礼を言いたい。彼のこの映画に関するラップを聴いてみたい人は下記のリンクをご参照ください。
 https://www.youtube.com/watch?v=0oNRienXQJU


 もちろん、不満はないことはないけど(不満点その他については、下記のネタバレありのレビューをご覧ください)、結局のところは面白かった、で終わっていい作品だと思う。

 ああ、後悔があるとするなら、こういう予算がかけられていそうな映画は映画館の大きなスクリーンで見たかったなあということくらいか。



---これ以降、ネタバレあり。

 
 基本的にゾンビ映画に関して、まだるっこしい前提はいらないと思ってる身としては、最初のくだりが短くて早々にゾンビが登場するのはストレスが少なくて良い。
 家族愛を中軸に置いてるけど、ブラピの家族がやきもきする場面、ゾンビ映画を愛する者として「絶対襲われない位置から親しい者の身を心配する」描写は必要最低限でいいという気持ちがあり、それはちゃんと必要最低限程度の時間で済ませてくれている。大味だと批判する人もいるかもしれないけど、ゾンビ映画はこのくらいでいいのだと思う。


 最後の「闘う場所」がWHOの中枢の建物っていうところも良かった。
 これがあんまり広い戦場だと「最後は輸送機に乗り込めばなんとかなるでしょ」っていうこちら側の冷めた気持ちが湧いてきてしまうけど、限られた空間の室内ということで、緊張感がいつまでも持続した。
 シリアスなゾンビ映画はやっぱりこの「どこでも油断できない」感が大事だと思う。その意味でも今作は、どの場所でもブラピは安堵することができずに常に追いかけられる感覚が演出されていて、これまた良かった。
 

 不満点としてはまず、もうちょっとグロ描写を鮮明に映してほしかったというのがある。
 せっかく予算がある程度設けられているゾンビ映画ということで、ゾンビが銃に撃たれて肉片が飛び散るとこであったり、人が複数のゾンビに噛み付かれて生々しく痛々しい肉の塊になるとこであったり、そういうグロ描写をもっと思い切り入れてほしかった。
 今作は大衆向けというのを意識したせいか、ゾンビを殺す場面でも銃を撃つ人間のカットを見せるなどして、敢えて「死ぬ描写」が避けられていた傾向にある。「噛まれたらこうなる」という恐怖感が、ゾンビ映画にしては薄かったのが残念な部分のような気がする。

 
 もうひとつ、主演のブラピ以外のキャラ立ちがいかんせん薄すぎる。
 途中に「噛まれてもブラピを輸送機に乗せてくれた軍曹」であったり「片手を噛まれたけどブラピに腕を切断してもらい、感染を免れた女軍人」が登場するけど、もう少し物語の重要な役割を与えてほしかった。今回は大事なところは結局全てブラピに任せてしまっているので、彼ひとりに注目していればいい、と言われても仕方ない作りになっている。
 『ミッション・インポッシブル』シリーズにしても、いつも大事なサブがイーサン・ハントのチームにいるおかげで、最後のおいしいところが生きるのであって、最初から全部ブラピに任せてしまっては、その最後の「おいしい」感もあんまり感じられなかった。
 ブラピ主演、というのを意識しすぎたのか、全体としては良かっただけに、彼の周りが弱いのはとにかく残念でもったいない。


 ただ何度も言うように、全体的には悪くなかったし面白かった。
 終わらせ方も全部がすっきりするのではなく、とりあえず窮地を凌いだブラピ家族、という着地は雑すぎない感じで納得がいった。

 ゾンビ映画ファンならば、見ておく価値のある一本に収まったと思う。
しまうま

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