Tsuneno

俺はまだ本気出してないだけのTsunenoのネタバレレビュー・内容・結末

2.0

このレビューはネタバレを含みます

※過去記事です


昔、まだ会社員だった頃、協力会社の人から言われた事がある。
「●●君は仕事上手くこなしているけど、まだまだ本気出してない感じがする」
文脈的には恐らく褒め言葉だったのだけど、自分にそういうところがあるのは事実で、まあ本気なんてそうそう出さないです。みんなそうでしょ?
フリーランスとなり、毎日の生活にちょっと困るくらいの収入になってしまった時にも、あんまり本気出して頑張らない。仕事が無いと、今日みたいに映画観たりゲームしたりする。たまに枕元に神様が立ち「お前、このままでいいの?」なんて言う・・・かどうかは別に、あまり本気は出さないです。
 
上映時刻は平日の10:00。
うう、回りの客からは「あいつも本気出してないんだろうな」と思われるんだろうなと思いながら鑑賞しました。居心地悪いったらありゃしない。
 
さて、スクリーンではいかにもなダメ男が、ダメなくせに回りに説教したり、漫画全然描かないまんま進んで行く。元々が人の良いシズオは、野球チームやサッカーチームの子供達のところに行っては、「監督(あだな)」と呼ばれてニヤニヤしながら球拾いやってたりする。
回りの人は笑っているけどね、全然笑えないよこれ。俺の毎日をドキュメンタリーにしたような映画だこれ。胃が痛くなる。
 
で、唐突にラストの事を話し始めるので、観たいと思っている人はここから先は見ないでね。
 
 
ラストのまとめ方に凄い違和感があった。
堤君や生瀬君、それに山田君のダメダメな毎日が、何の苦労も努力も無いままに良い方向にまとまってしまった。
現実社会がこうやって「しゃんしゃん」にまとまって行くならそれでも良いんだけど、あまりにもご都合だろうと思った。これじゃ、彼の描いていた漫画そのものじゃないか。
 
凄く気になったので、思わずその日のうちに原作を読んでしまった。
 
凄くいいじゃないか、原作。
原作では、彼らはきちんと喪うべきものを喪い、でもそこにはきちんと救いがもたらされ、そして彼らは彼らのダメさを、そのまま持ち続けていた。彼らは変わらなかったけど、でも彼らをとりまく回りの環境が彼らを赦したという終わり方だった。
 
人間、そうそう変われない。自分の持つダメな部分を認めて愛したり、それを隣人に愛してもらえるって事が、幸せに生きるための秘訣だと思うのよ。それは自分のためだけではなく、愛してくれる隣人にとっても大切なステップなのだと思う。
 
原作にはそれが描かれていて、残念ながら映画ではそれが描かれていなかったように感じる。
この差はたぶん結構大きい。
前者のシズオは、自分のダメさを受け入れて生活していくだろうが、後者のシズオは恐らく、これから更にダメさをこじらせて行き、そしていつか、自分の家族を損なう事になるのではないか。
 
原作ものの映画ってのは、大きく場面を変えられないという縛りがあり、原作に登場するあらゆる場面を入れ替えながら尺に合わせて物語を再構築するという難しさがある。それはわかる。大変なんだろう。
でも、幾ら場面を入れ替えても、変えてはならない部分があるんじゃないかと思う。
恐らく、制作側から見えた作品のテーマ、シズオ達は、今回描かれていた通りのものだったんだろう。シズオ側の俺は納得できないまま、原作のシズオが得たような「落としどころ」を探し、今日も自堕落に映画を観ます。
Tsuneno

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