木下恵介監督作品は、私が生まれる前のものが多く1本も観たことがなかったので本作の内容について行けるか不安であった。
しかしこの作品の中心的なストーリーである病気の母親をリヤカーで疎開先に運ぶきっかけとなった、戦時中の監督作品「陸軍」のラストシーンは、劇中に挿入されているので知らなくても心配はいらない。
それは、戦地に向かう息子の行軍を母親が手を合わせ涙する場面である。
この短いシーンで、すっかり感動してしまった。
さすがに巨匠と言われるだけの事はある。
しかしこの名シーンも当時は、次回作が中止に追い込まれるありさまである。
そして理想の映画が作れない事に絶望し映画作りを止めてしまう。
ただただ苦しいだけの疎開先への道のりのはずが、自分の映画を待ってくれている人に出会い、戦時下でも変わらぬ美しい自然や母の愛に支えられ、これが絶望からのはじまりのみちになる。
戦争を違った角度から描き母親と息子の愛情を美しく表現した素晴らしい作品である。
さらにエンドロールで流れる池田綾子さんの透き通るスキャット曲「まっすぐな心」が彩りを添えている。