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はじまりのみちののんchanのレビュー・感想・評価

はじまりのみち(2013年製作の映画)
3.9
日本人なら知らない人(若い方抜いて)はいないであろう、木下惠介監督。
『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾歳月』『楢山節考』などで知られる日本を代表する監督の生誕100年を記念して製作された半自伝物語。

戦時中に監督作の『陸軍』が"戦意高揚映画"ではないと軍部からマークされてしまった木下惠介(加瀬亮)は、次回作の製作が中止となってしまう。そんな状況に怒りが湧き松竹に辞表を出し、脳溢血で倒れた母たま(田中裕子)のいる浜松へと向かう。戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた惠介は、体の不自由な母をリヤカーに乗せ、兄(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)とで、17時間に及ぶ山越えを決行する。途中雨に見舞われても雨具も付けず、大変な重労働で山を越える...


原恵一監督は、木下惠介の『天才監督の挫折と再生の物語』として『家族の情愛』や『モノの作り手としての反省と喜び』などの要素をしっかり丁寧に盛り込んでいる。

木下監督と母親の強い心の繋がりを描いた部分として、宿に着いた時、宿に入る前にリヤカーの上で、母親の雨で汚れた顔を拭くシーン。上手く説明できないんですが、神々しくて素晴らしいのです。
手拭いで顔を優しく拭い、髪を櫛で何度か整えてあげる。母はその力も無いので、されっぱなしで凛としている。(この部分も実話だそうです)時間で言うとそんなに長くは無いのだろうけど、周りが一瞬静止し、その部分だけが浮き彫りにされている写し方が、日本人として、またあの戦時中、母親の気持ちとか、思いが廻るのです。そのシーンだけでも見応えがありました。
また母が病床からやっとの思いで身体を起こし手紙を記します。『また木下惠介の映画が観たい...』と。その気持ちを汲み再生して行くのです。

加瀬亮はとても好きな俳優ですが、主役でも脇役でもどんな役でも熟し、日本映画界になくてはならない名優でしょう‼︎

また濱田岳も巧い。小柄でイケメンでもないけど、その作品の奥行きを広げる逸材ですね。

過去の名作から有名なシーンを沢山挟み入れ、モノクロからカラーになった作品や、朝陽を拝む時の光の映し方なども美しい。

原監督が木下惠介監督が生み出した膨大な作品群に対しての深い愛情と尊敬なくしては作れない作品になっていました。
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