カラン

サイの季節のカランのレビュー・感想・評価

サイの季節(2012年製作の映画)
4.5
イラン・トルコの合作。マーティン・スコセッシが提供と冒頭に出てくる。イラン人女性は普通に映画女優になれて顔出しできるのかどうかは知らないが、少しでも西側に訴求するようにと、モニカ・ベルッチを出したのかもしれない。というのは、反体制的ということで27年間投獄されるクルド人の詩人・サヘルの妻はイラン人であるという設定だからだ。いや、設定というか事実そうなのかも。ただ、詳しい事情を知る由もない日本人がこの映画を観たとして、もしモニカ・ベルッチを知らなかったら、普通に中東の美人の女優さんなんだろうと思うだけであろう。モニカ・ベルッチの起用によって、また、マーティン・スコセッシの名前を冠することで、この映画を西側諸国で少しでも多く受容する人がでてくるのであれば、監督の本望だろう。

光の変容をとらえるべく、ガラス、プール、海、雨、雪、車のウィンドウ、その他、光沢のある家具等が多用されて、キェシロフスキの『青の愛』(1993)以上に光学的な撮影になっている。物語はヴィルヌーブの『灼熱の魂』(2010)に近く、政治犯とされた詩人と家族の残酷な運命をなぞることになるが、この映画では古典的な悲劇にならっているので、ヴィルヌーブのように真実を知っても無傷なミステリー調にはならない。ストーリーは分解されており、人物が漂白するので、2010年以降のテレンス・マリックにも近いが、さらに陰影は強く出ており、テクニカルなショットを生かす編集はテレンス・マリックを超えているかもしれない。テレンス・マリックは光を直接に捉えようとして、それ以外は全部捨ててしまう節があるからね。30年前と現在を繋ぐフラッシュバックの入りがカットバックでいくことが多い。音もシーンをクロスオーバーする。

サイも出てくるし、亀も、馬も。動物たちが分からない? 無知のもたらす不幸と優しさと性的欲望のメタファーでしょうな。ぐちゃぐちゃいう必要などない。


モニカ・ベルッチ、歳とって輝き増してる。


レンタルDVDは、ドルビーデジタル5.1ch。素晴らしい。部屋の中をイラン・トルコに変えるべく音が駆けめぐる。画質も良好。
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