MasaichiYaguchi

さよなら渓谷のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

さよなら渓谷(2013年製作の映画)
3.4
本作は吉田修一さんの同名小説の映画化作品。
このスキャンダラスな二つの事件が交錯する問題作を、演技派キャストたちによって、大森監督がどう映像化するのか興味津々で鑑賞に臨んだが、期待以上だった。
大森監督は本作について「役者の良い表情や仕草、演技が全て」と語っているが、その監督の期待に応えるように、主演の真木よう子さんが体を張った演技で、それに拮抗するように大西信満さんが内に激しい思いを秘めた演技をしていて、彼らの体から発する熱が伝わって来るようだった。
そして、初めは幼児殺害事件を担当していた雑誌記者・渡辺役の大森南朋さんと、その相棒役の鈴木杏さんが、我々観客目線でミステリアスなこの二人の過去や謎を追い、分かり易く彼らのプロフィールを紹介していく。
登場人物は多くはないが、この二人を巡る様々な人間模様が、この作品に深い陰影をつけている。
原作を映画の鑑賞前に読むか、鑑賞後に読むかと問われる時があるが、私的意見になるが、本作に関しては観る前に読んだ方が良いような気がする。
私が原作を読んで、この二人の「関係性」にどうしても共感出来ない、心で納得出来ない部分があったが、大森監督は、原作にはないシークエンスを追加し、映像で二人の「関係の成り立ち」を表現している。
「若気の至り」で衝動的に犯してしまった「過ち」により、被害者を「その後の人生」を含めて深く傷つけてしまい、その罪の「十字架」を背負い、被害者も加害者もボロボロになりながらお互いの傷を舐め合い、道行きの果て、社会の隅で寄り添って生きるという、負の方向ではあるが、究極の「愛のかたち」。
映画に登場する深い渓谷を流れる川のように、男と女の間には、簡単に行き来出来ない「溝」がある。
その「溝」を越える為、一本の吊り橋を渡って心を通わせていく。
道行きの果て、愛憎相半ばする捩れた恋愛を、じっとりと汗ばむような夏の風景で描く本作は、主演の真木よう子さんの代表作の一つだと思う。