岡田拓朗

さよなら渓谷の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

さよなら渓谷(2013年製作の映画)
3.8
さよなら渓谷

ごく普通に見える夫婦。
だがふたりは残酷な事件の被害者と加害者だった。
15年前の「罪」が、再びふたりを引き寄せる。

ずっと前に鑑賞した作品ですが、レビューを忘れていたという痛恨のミス。

設定がかなりの衝撃で、吉田修一原作っぽさが出ていた作品だった。
設定は衝撃ながらも、描かれていることはセンシティブで、不変的な人間の愛、憎悪、性、幸せ、苦しみ、葛藤、戒め、罪、罪悪感が共存していた。

決して理解、共感することが難しい尾崎かなこ(真木よう子)と尾崎俊介(大西信満)の夫婦関係だが、結局はその当人同士でしか昇華し得ない何かがそこにはあったように思える。

この2人の夫婦関係を軸に、様々な立場の人の物語が共存しているが、そこに目が向かないほどに、やはりかなこと俊介の物語にハマっていく。

ありきたりじゃなく、むしろ繋がり得るはずのない2人の間に生まれてるからこそ、もっとその背景や裏やそれぞれの想いを知りたくなるし、一度自分に置き換えて考えてみたくなる。
でも、そこにはわかり得ない大きな隔たりがあるように感じた。

俊介は決して幸せになることは許されない。
それでもかなこは離れられなくて、徐々に普通に幸せな夫婦関係になりそうになっていく。
愛し合ってはいけないと頭ではわかっていても、感情が言うことを聞かずに暴走していく。

そこであのラストに終着するのはかなり衝撃だった。
かなこから俊介に愛は芽生えていたのか。
初めからずっと感情に負けずに戦略での結果があれなのか。
それは結局わからなかったけども、2人で幸せになるということは、俊介も幸せになるということ。
それだけはかなこの中で許せない軸だけはブレていなかった。

愛っておそらくかけがえのないもので、犯した罪さえ忘れられるんじゃないかと思ったが、そんなに甘いものじゃない。
最後に現実に引き戻るような展開で、綺麗だとか美しいだとか、そんなのとは無縁の物語なはずなのに、なぜかそう感じてしまうし、惹かれてしまう世界観。
罪から愛に昇華していく過程とその背景を彩っている渓谷や自然の情景。
おそらくこれがそう感じされられてる所以なのだろう。
この重さと美しさと人間臭さの共存こそが邦画のよさ!

P.S.
真木よう子の全盛期…この演技は凄すぎるし、相当の覚悟の上にあるものだと思う。
「そして父になる」と併せて鑑賞しておきたい真木よう子。
大西信満と大森南朋も絶妙な泥臭さ。
まさかの「セトウツミ」や「日日是好日」と同じ監督というのもまた衝撃!笑
岡田拓朗

岡田拓朗