すずき

グランド・マスターのすずきのレビュー・感想・評価

グランド・マスター(2013年製作の映画)
2.7
1930年代、日中戦争前夜の中国。
近々引退を考える、中国北部武術界の長ゴン・パオセン。
彼は、南の武術界の達人と引退試合をして、勝った者に自身の夢である北と南の武術の統一を任せたい、と考えていた。
南の武術界が代表者として白羽の矢を立てたのは、詠春拳の達人、イップ・マン。
イップ・マンはパオセンと立ち合いをするのだが、パオセンの娘・ルオメイはその事を快く思わなかった…

うーん、カンフー映画としても、ウォン・カーウァイ監督作としても微妙な出来に感じた。
ウォン・カーウァイはこの作品を撮りたくて撮ったのだろうか?
しばらく監督させてもらえてなかったから、仕方なく「イップ・マン」ブームにあやかった企画に乗っかったのでは?
そう感じた作品。
「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」の3作品しか見てない私が、ウォン・カーウァイ作品を語るには知識不足かもしれない。
間違った事書いてたらスイマセン。

カンフー映画としては、ストーリーがよろしくない。
最初こそイップマンが南の代表として北の重鎮に挑む、という王道っぽい導入。
しかし、その勝負はなんか餅の奪いあい&議論で早々に終了。
そんでその後、娘のルオメンと戦ったりするんだけど(その試合は素晴らしい)、なんとそれ以降、イップマンはネームドキャラとバトルしない!
というかストーリー自体イップマン中心じゃなくなって、ルオメン視点だったり、パオセンの元一番弟子マーサン(マックス・チャン!)視点だったりと、あちこちに飛び火する。
一番ワケわかんないのは、カミソリという名の人物視点で、初登場時以外、他キャラとほぼ絡まないエピソードだし映画に必要なキャラなの?
なんか当時の中国武術界の年表を映像化しただけ、のような展開が続く。
これと言った目的がなく着地点が不明で、どこに向かってるか分からない脚本は、ウォン・カーウァイらしいと言えばらしい。
だがやっぱり、バトル物には燃えるストーリーが欲しい。

ウォン・カーウァイ映画としては、キャラクターがよろしくない。
俺の好きな彼の作品の登場人物は、皆何をしでかすか分からない所だ。
大量の賞味期限切れ缶詰パインを一気食いしたり、片思いの人物の家に忍び込んで勝手に模様替えしたり、そーゆーキャラが好きなのだ。
そんなキャラだから、ただでさえ行き先不明のストーリーが、いよいよフリーダムに展開する、そんな映画がウォン・カーウァイの持ち味だと思っていた。
ところがこの映画、キャラクターが実在の人物だから、史実と大きく異なる事をさせるわけにもいかず、みんな大人しい。
キャラの独白が増える終盤こそウォン・カーウァイ映画っぽくなるけど、それまでは退屈な所が多かった。

勿論いい所もあって、トニー・レオン演じるイップ・マンの、裕福な生まれを感じさせる気品が良かった。もちろんドニー・イェン版イップ・マンも大好きだけど!
あとイップ・マンvsルオメンの、ダンスのような演出のカンフーシーンも優雅で、全体的にもヨーロッパ映画感ある映像が美しかった。