TaiRa

まぼろしの市街戦のTaiRaのレビュー・感想・評価

まぼろしの市街戦(1967年製作の映画)
5.0
世の中がきな臭くなればなる程、観返したくなるのがこの映画。ちょうど観たいと思っていた時期に再公開。

第一次世界大戦末期、北フランスの小さな町。町を占拠していたドイツ軍が敗走する。イギリス軍がこの町へ到着した頃に爆発する時限爆弾をセットして。その情報を入手したイギリス軍は「フランス語が喋れる」というだけで伝書鳩係の主人公を偵察&爆弾解除に向かわせる。伝書鳩の専門家に爆弾解除はもちろん出来ない。デタラメな命令を受けて町へやって来た主人公は、まだ町に残っていたドイツ兵に追われる。逃げ込んだ先は精神病院。避難した町の住人からもドイツ軍からも忘れられて病院に閉じこもっていた患者たち。主人公は彼らに「ハートの王様」と勘違いされ歓待される。もぬけの殻になった町は1日だけ精神病患者のモノになった。思い思いの格好に変身した患者たちは自由気ままに遊び回る。主人公は時限爆弾の在り方を見つけ出せるのか。この映画はとにかく楽しい。出て来るのがみんなキチガイだ。ラブ&ピースのキチガイだ。彼らは外の世界へ逃げ出そうとはしない。外の世界こそ狂っているから。町の中を混沌が支配している最中、外の世界ではそれに輪をかけた混沌が蔓延している。戦争に勤しむ輩よりキチガイの方がよっぽどマトモである、という真実を描いた傑作だ。彼らが本当に狂っているかも分からないのが良い。戦争という狂気に対抗する為に狂気を敢えて纏っている様にも見える。佯狂者という考えがロシア正教にあるが、ある意味では彼らは狂人を装った聖者なのかもしれない。ラストで主人が取った行動の様に。戦争も社会も捨てた純粋な人間だけがあの病院にいる。
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