atsuki

ワイルド・スピード EURO MISSIONのatsukiのレビュー・感想・評価

4.5
【狼狩りは狼で…】


『ワイルドスピード X3 TOKYO DRIFT』から超娯楽大作へとシリーズを引っ張って来たジャスティン・リンの最終章。「考えるな、感じろ!」的な映画だけど、結果「考えなきゃ!」と思わせるハイパークオリティを送り出し続けて来た。

今作の制作秘話でジャスティン・リンが話しているが、『TOKYO DRIFT』の時にヴィンと相談して壮大なファミリーの物語を作り上げる為にドムの家族を掘り下げ様とした。そして今作の鑑賞後には『TOKYO DRIFT』や他の『ワイルドスピード』シリーズの時系列が点と点で繋がる。

ここまで考えていたジャスティン・リンとヴィン・ディーゼルにはひたすら頭が下がる。

5作品も続く過去作は「善」と「悪」を割り切る事の出来ない作風であったが、今作からは確実に「善」と言い切れる「ヒーロー映画」となっている。前作『ワイルドスピード MEGA MAX』で誕生した「ファミリー」を無罪放免にする事を条件に敵であったホブスから雇われる形になる。

今作の敵であるオーウェン・ショウとドムファミリーに関する重大な秘密が明らかになる。この先『スカイミッション』そしてもう直ぐ公開する『アイスブレイク』と続くショウファミリーとこんなに因縁深くなるなんて誰が予想出来ただろうか…

今作に限って言うならば、明らかになる秘密はこれまでの過去の出来事についてであるのだが、前作のラストで提示されたレティに関しての疑問の答えとなる。

続編が出る度に観客の期待値を超えてくる『ワイルドスピード』クオリティは健在。

まず、オリジナルの特殊車両フリップカーから始まり、戦車とジャンボ機とまで喧嘩する。そういった意味では今作はカーアクションの次元を1つ上の物へと引き上げた。更に肉弾戦も盛りだくさんである。総合格闘家のジーナ・カラーノが出演した為に男だけじゃない女性の戦闘も濃密で熱い。ブロマンスを超えたドムとブライアンに続き、ドムとホブスもブロマンスを超越し、終盤のコンボ技は萌えざるを得ない。

また、今作はコメディ路線へと舵を大きく切っている。コメディアンポジションとして圧倒的な存在感をローマンを中心に、お馴染みのローマンとテズ、ホブスとテズやローマンとハン、そして蘇るブライアンとスタジアックのコンビなど笑えるシーンが多く見られる。

ドム率いる「ヒーローファミリー」とオーウェン率いる「ヴィランファミリー」の欧州を舞台にした家族間戦争。ヴィンがインタビューで話していたが、今作は原点の『ワイルドスピード』にオマージュを捧げている。

「狼狩りは狼で…」は原点『ワイルドスピード』での「悪を持って悪を制す」と似たものである。またあの場所での食事前の祈りは正に原点回帰である。失った友、新たな命、再開した友。20世紀の終わり、また21世紀の始まりに誕生した『ワイルドスピード』シリーズの中で12年の時を経て、1つの時代が終わるんだなと感じる。

しかし、終わりは始まりでもある。エンドロールの後に見せられる新たな筋肉ハゲのシークエンス。これからドムファミリーはどうなっていくのか?興奮しかさせられない終焉である。

『TOKYO DRIFT』で初登場した謎の男ハンについての過去が全て明らかになるが、これほどまでにハンが好きになる作品はない。今作の序盤では少し弱々しかったハンが、終盤のある結末から孤軍奮闘する姿は泣かざるを得ない。更にここから「TOKYO DRIFT」に繋がるなんて辛さを極めてる。

この10年色々な事があった…
終焉を迎え、それぞれがひと回りもふた回りも大きく成長した。狼を狩る狼、正義の犯罪者であるドムファミリーはヒーローとして進化を遂げたのだった。
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