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氷の微笑のnetfilmsのレビュー・感想・評価

氷の微笑(1992年製作の映画)
4.0
 天井の鏡に映った男女のまぐわう姿、キング・サイズのベッドの上、騎乗位で乱れる女はシルクのスカーフで男の両腕を固定し、アイスピックで男の心臓目掛けてめった刺しにする。元ロックスターでナイトクラブ経営者のジョニー・ボズの惨殺死体、傍らにはコカインが置かれ、その反応はペニスの先からも微量に検出される。サンフランシスコ市警察の刑事ニック・カラン(マイケル・ダグラス)と相棒のガス・モラン(ジョージ・ズンザ)は、被害者の恋人で美人女性作家のキャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)を容疑者として真っ先に疑う。彼女の住所に着いた2人の刑事が尋問するのは、キャサリンではなく彼女の友人のロキシー(レイラニ・サレル)という女性だった。キャサリンは別の豪邸にいると教えられた2人は現場へと急行する。そこでは海を眺めるキャサリンの涼しげな姿があった。色白のボディにすらりと伸びた脚、うっかり着替えを覗いてしまったニックはその妖艶さの虜になる。ベス・ガーナー医師(ジーン・トリプルホーン)のカウンセリング室、ニックはいつものように診断を受けるが、動揺を隠すように軽く受け流す。キャサリンは数ヵ月前に今回の事件そっくりのミステリー『愛の痛み』を発表しており疑惑は増すが、彼女は警察の尋問を軽くクリア。キャサリンは次回作に、以前捜査中に誤って観光客を射殺してしまい「シューター」(早撃ち)とのあだ名をもつニックをモデルに小説を書くことを告げる。

 前作『トータル・リコール』で露わになったシャロン・ストーンの魅力は今作で華開く。圧倒的な美貌と不敵な笑み、男を翻弄するようなファム・ファタールな魅力に溢れたキャサリンは、エイドリアン・ラインの『危険な情事』に続き、骨抜きになったマイケル・ダグラスを誘惑する。一見、サンフランシスコ市警の敏腕刑事に見えるニックの正体とベスとの因縁、深い病巣を背負った男は汚職事件に関わるファイルがキャサリンの手に渡っていたことを知り、激怒する。だが内務課の捜査官ニールセン(ダニエル・フォン・バーゲン)に激昂する男は自分自身が疑惑の標的になるとは微塵も思っていない。ローレンス・カスダンの81年作『白いドレスの女』を真っ先に連想させる物語は、螺旋状の階段、休職を言い渡された主人公の焦燥、ファム・ファタールなヒロインへの絶対的な盲目など、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』や『サイコ』のようなサスペンスをあからさまに彷彿とさせる。華麗な運転技術を持ち、ニックの過去を入念に調べ上げ、常に彼の2歩3歩先を行くキャサリンの行動パターンはまさに彼女の書き上げた小説の題材と瓜二つに映る。「ビーチハウスへ」と書かれた置き手紙、背中に立てた爪、ロキシーとの生死を賭けたカー・チェイスを経て、やがて明らかになるキャサリンとある女性との緊密な関係性。正当なファム・ファタール像というよりも、むしろ『白いドレスの女』や『危険な情事』を経て、より現代に寄るようなバイ・セクシャルでサイコパスに近いキャサリンの姿。揺りかごに揺られる彼女と、警察での尋問で足を組み替える女の姿の同一性に男たちはただただ翻弄される。
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