テレザ

氷の微笑のテレザのレビュー・感想・評価

氷の微笑(1992年製作の映画)
3.9
高級なお菓子みたいな名前のポール・ヴァーホーヴェン監督と、希少な宝石みたいな名前のシャロン・ストーンが主演の、それこそ珠玉の一作だな、と。
この映画はサスペンスドラマとして謎解きして楽しむのもいいけれど、本当に面白いのはキャサリンの精神世界を想像して楽しむことである。
私が思うに、彼女は彼女なりのやり方で男に、そして女に復讐している。
ベスが関係を持った男に接近し、ベスになりきってセックスをして、そして相手の男を殺す。自分を「愛している」男を絶頂の最中に裏切り、その殺人の容疑は自分を「愛してくれなかった」彼女に掛かる。彼女は二重の意味で世界に復讐しているのである。
とはいえ、もちろんそれは彼女が空想した虚構世界の筋書きでしかない。
彼女は自分の小説の中でしか生きられない人間であって、彼女は自作の物語を現実で再現し、貫徹するとき始めて全能の悦びを得ることができる。
彼女がそうなってしまった原因は、大学一年の時に派手に現実に躓いたこと。それはベスに「愛されなかった」現実である。
彼女はベスに執着するあまり、彼女に自分を投影してゆき、文学部だった彼女はベスに近づくために心理学の専攻を増やす。神の悪戯か祝福か、文学+心理学で彼女の才能が開花してしまったように思える。それは虚構に踊りながらも意識を冷徹に保つ才能である。つまり彼女は、舞台の上で物語を熱演する主演でありながら、鋭い批評性を持った演出家になってしまった。
キャサリンは複雑な独り相撲を永遠に演じる。それに気付かない男は永遠に彼女の虜である。
「星の王子様」で知られるサン=テグジュペリは「愛するということはお互いが見つめ合うことではなく、互いが同じ方向を見つめることだ」
という名言を言っているが、キャサリンと男は永遠にお互いを見つめ続けるであろう。
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