垂直落下式サミング

コマンド・フォースの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

コマンド・フォース(2010年製作の映画)
3.7
ウイルス兵器をめぐる戦いを描いたロシア産アクション映画。多国籍部隊によるB級エクスペンダブルズだ。
レンタル店で目を引くのは『この男たち人類最強』の謳い文句と、二人のメジャー俳優を差し置いてセンターに配された皇帝エメリヤーエンコ・ヒョードル。いかにもヒョードルが主役かのようなパッケージだが、基本的に彼が喋るシーンは少なく、事実上本作の主役であるルドガー・ハウアーや韓国の男気俳優キム・ボスンといったいぶし銀の実力派たちにストーリー上の見せ場は譲っている。
ミルコ・クロコップ主演映画『アルティメット・フォース 孤高のアサシン』やアントニオ猪木主演映画『アカシア』なんかでも分かる通り、演技の出来ない格闘家を中心にしてドラマを構成すると、彼等の強烈な存在感によって映画そのものが破壊され何とも言えない異質なアイドル映画が誕生してしまう。
ましてヒョードルはその冷徹なファイトスタイルとは対照的に、数々の猛者達をマットに沈めたその手でペンを握り可愛らしいイラストを描くことが趣味のアンビバレンツな萌え性質の持ち主。彼を主演になどしたら確実にヤバイものが生まれる。無口キャラとして脇に配すのが堅実だ。
この映画の見物は何より特殊部隊の隊員に扮した元PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードルが森で敵と戦う場面だろう。彼はコマンドサンボを極めた軍隊出身者という事で、銃を構える姿もなかなか様になっている。初公開は2010年。といえば彼が総合で初の敗北を喫した年だ。そんな理由もあってか顔も少々丸みを帯びており、試合では微塵も表に出さなかった彼の人間的な一面も垣間見れる。
あの氷の皇帝ヒョードルが映画に出演しアクションを披露している。貴重である。貴重なのだ。この一点のみで私はこの映像作品を全面的に擁護しようと思う。