rhum

きっと、うまくいくのrhumのレビュー・感想・評価

きっと、うまくいく(2009年製作の映画)
4.8
もう何年も前だが、インドにしばらく滞在していたことがある。
滞在中、仲良くなった友人たちに「オススメのインド映画をいくつか教えてほしい」と質問してみると、尋ねた全員が1番最初にある映画を挙げた。これだけは絶対に観ろ、と。

それが、この3 idiotsだった。

滞在先の近所にあったショッピングモールで3 idiotsのDVDを買った。当時日本では一般公開されていなかったため、帰国後しばらくは買ってきたDVDで何度も観た。
そして毎回思った。なるほど、とてもよく出来た、楽しい映画だ。だが。

言うまでもなく、この映画はファンタジーだ。
人口13億人。平均年齢は20代半ば。おまけにカースト制度も根強く残る。インドにおける若者たちの(生存)競争の厳しさは想像を絶する。そして残念なことに実際にはランチョーのようなイカした奴などまずいない。彼らの眼前にはただ、自らの力ではどうにもならないあまりに大き過ぎる社会が横たわるだけだ。この国の若者にとっては多くの場合、夢とか社会的成功とか以前に、このバカでかい世界の中でいかに生き残るかが人生最大の関心事となる。

けれども…いや、だからこそ。競争原理に左右されない友人関係、自分の好きなことを追求する姿勢、明るく楽しく生きようとするマインド、それらの尊さを胸に刻んでおくことが大事なのだ。どこまで我が身に適用できるかは分からずとも、"ただ生き残るためだけでなく、自分らしく生きることを楽しむ人生もまたありえる"ことを心に留めておくことが大事なのだ。
このコメディ映画にはそんな強烈なメッセージが織り込まれているように見えるし、それはまた、彼らと環境の差はあれど、やはり各々の現実を前に無様にもがく僕らの心にも、普遍的なトーンで響いてくる。
人生常に泣き笑い。競争は終わらないし、こちらの悩みなんか関係なく世界は回り続ける。限られた時間、ちっぽけな自分、この人生でやれることは少ない。ならば深刻ぶった顔をして何かを嘆くより、可能な限りいつも明るく後悔しないように生きよう。自分がやるべきと思うことを、しかもできればやりたいことを、楽しくやろう…と。

とてもよく出来た、楽しい映画だ。だが、自分にとってはそれだけではない。

友人の1人はこう言った。
「インドで生きる僕らにとって、3 idiotsは特別な作品なんだ」
彼の言葉は大袈裟じゃないのかもしれない。だって、遠く離れた場所に住む俺にとってさえ、この映画は生きるためのカンニングペーパーみたいなもんなんだから。
rhum

rhum