サマセット7

きっと、うまくいくのサマセット7のレビュー・感想・評価

きっと、うまくいく(2009年製作の映画)
4.5
2009年公開のインド映画。
監督は「pk」のラージクマール・ヒラーニ。
主演は「pk」「ダンガル・きっとつよくなる」のアーミル・カーン。

舞台は競争至上主義の学長が君臨するインドの名門工科大学。
新入生のファルハーンとラージューは、入寮の日、上級生の理不尽な「歓迎」に屈しない新入生と出会う。
彼の名はランチョー。
3人は意気投合し、3バカとして知られるようになる。
一方、10年後、ランチョーは行方不明となっていた。
ファルハーンとラージューは、同じ大学の同窓生であるチャトルから呼び出される。
チャトルは、10年前にランチョーとした賭けの結果を確かめると宣言し、ランチョーの現在の居場所を突き止めたと言うのだが…。

インド映画の代表的名作。
インド国内の当時の歴代興行収入記録を塗り替える特大ヒットになった。
インド国内の映画賞を総ナメにし、海外においても高く評価された作品。

ジャンルは青春学園コメディ。
一部シリアスなドラマや、恋愛、インド映画ならではのミュージカル要素も含む。

メインストーリーは、大学での主役3人の破天荒な活躍と、10年後の行方不明のランチョーを探すファルハーン、ラージュー、チャトルの旅が並行して描かれる。
なぜ、ランチョーは親友たちに行方を告げずに消えたのか?
そして、ランチョーはどこに行ったのか?
そもそも奴は何者なのか?
序盤に提示されるこれらの疑問がストーリーを牽引するのだが、前半終了時にある事実が明らかになり、話は加速度的に面白くなっていく。

今作の魅力は、時にコミカルに、時に感動的に描かれるストーリー、膨大な伏線を見事に回収する優れた脚本、深く鋭いテーマ性と社会批評性、そして、若い観客に向けた温かいメッセージ性にある。

大学パートの見どころは、教条的でテストで点数をとらせることしか頭にない教育環境において、「アールイズウェル」(うーまくいく)を合言葉に異彩を放つ天才ランチョーの、快刀乱麻の活躍の痛快さにある。
誰かがトラブルに見舞われ、これをランチョーが機転を利かせて助ける、というのがストーリーの基本だ。
この繰り返しが、3人の友情をもたらし、大学教育の意義を根底から揺り動かし、ヒロインであるピアの愛情をもたらし、そして、学長との度重なる対立を生むことになる。
いずれの描写も、テンポよく洗練された演出でコミカルな味付けがなされる。
特に学長との戦いは、両者の演技も相まって実にユーモラスで楽しい。

大人パートでは、上述のランチョーの行方を巡る謎解きがメインとなる。
大人パートで事実が明かされると、対応して大学パートの見方も大きく変わるあたり、非常によくできている。

今作の終盤では、周到に張られていた数々の伏線が次々と回収されていき、圧巻である。
やや平凡に感じられた前半の描写が怒涛のように意味をもつため、全部見終わった時の満足感は極めて高い。
細かい事柄が意外な意味を持ち、後半の感動の波を形作る。

今作のテーマは、人は、どのような人生を歩むべきか、そのために学校でどのように学ぶべきか、ということと思う。
親が決めたレールに従い、収入が良いからという理由で職種を決め、就職に有利だからという理由で大学に行き、学位をとるための点数稼ぎの手段として、好きでもない学問をかじる。
それが現実だ。
それでいいのか?と今作は問いかける。
なりたい自分にならずに、死ぬ時に後悔しないか?
なりたい自分になるために、学校ではどのように学ぶべきだろうか?
点数をとるための丸暗記に意味などないことは明らかだ。ではどうする?
ランチョーの言動は、硬直化した現実に、ストレートパンチを喰らわせる。

今作はインドの社会問題である、過剰な学歴主義、競争主義、その負の遺産である学生の抑圧と自殺の増加を正面から描いた作品である。
これらの問題は、日本でも他人事ではなく、普遍的な社会批評性がある。
今作では、学歴社会の病理の根幹が、教育現場のみならず、親の過重な期待にあることを示唆する。
ランチョーに軽やかに導かれ、ファルハーン、ラージュー、ピアは、それぞれクライマックスで、自分を縛る根幹と対峙し、成長していくことになる。
各シーンはいずれも感動的だ。

今作は、教訓的なメッセージに満ちており、啓蒙的な作品といえる。
その最大のものは、自分の心に正直に、なりたいものになれ、というメッセージだろう。
他にも、心は臆病だ、とか、成功を求めて勉強してはいけない、とか、金言がたくさん出て来る。
老若男女問わず有用だが、特に若い人は、多くの気づきを得られるかもしれない。

ガリ勉くんへの悪戯の不謹慎さなど、言いたいことがないでもなかったが、やり過ぎも間違いもあるのが学生時代というもの。作中でも最後まで見るとその点に触れられており、抜かりはない。

全体として、楽しく、スッキリ爽やか、さらに何か深いものを学べた気にもなれる、三拍子揃った名作である。
なお、主演のアーミル・カーンは、まさかの撮影時44歳!インド人すごい!!