コマミー

アンチヴァイラルのコマミーのレビュー・感想・評価

アンチヴァイラル(2012年製作の映画)
3.9
【徐々に浸蝕する】


※この度、今年の9月16日に墨田区菊川にオープンした「stranger」と言う映画館に行って参りました。カフェが半分・映画館が半分と言ったスペースが確保された映画館で、映画を観た後も感想だとか知識などをゆっくり共有できる映画館となっており、個人的にはとても好きな映画館でした。今回はその「stranger」で"ブランドン・クローネンバーグ"のデビュー作である本作が上映されてたので観て参りました。



ブランドン・クローネンバーグ……"デヴィッド・クローネンバーグ"を父に持ち、本作や「ポゼッサー」で父同様SFスリラーを手がけた。
そんな短編やMVを手掛けてきたブランドンが長編デビューを飾ったのが、この「アンチヴァイラル」だ。主演に"ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ"を起用したのはまさに才能だなと感じた。そして本作のキーパーソンであるセレブ女性"ハンナ・ガイスト"役として、「危険なメソッド」から「マップ・トゥ・ザ・スターズ」と言った、実際に父デヴィッドの作品にも出演している"サラ・ガドン"を起用しているのも何かの縁だなと感じた。

舞台は、"セレブのウイルス"が快楽目当てに売買される近未来なのだが、この他にも本作の世界にはセレブの遺伝子を精製されて作る"培養肉"と言うほぼ人肉に近い物体を、牛肉や豚肉などよりも好んで食べる"カニバリズム"に近い文化も誕生している。
そんな世の中で、ウイルスを売買する医療サービスに従事している見るからに具合が悪そうな主人公"シド"。
なぜ具合が悪そうなのかと言うと、"自らもセレブのウイルスを身体に取り込んでいるから(違法だけど)"だ。そんな異常な変態性を持つシドも虜になる究極のセレブが、ハンナ・ガイストだ。中国で感染したとされるハンナの中に入り込むウイルスを求めて、シド含め様々な人が集る中、ハンナのウイルスだけは何かおかしい事に後に気づくのだ。

そこにはウイルスを巡るある"陰謀"が渦巻いていたのだ。

私はこれに、今まさに大きく取り上げられている"カルト宗教の問題"や"性事情やマイノリティに関する問題"を重ね合わせた。
ここで描かれているセレブのウイルスや遺伝子を身体に取り込む快感は、ある意味カルト宗教が漂わせる"中毒的な信奉"を思わせる描き方で、それに近い恐怖を感じさせたのだ。それと同時に、セレブの身体への"軽視"のようなものも感じさせ、これは一種の性事情やマイノリティの類の差別への"批判や皮肉"を込めた抽象的な描き方だなと感じた。
ブランドンがこの時から、その類の批判を作品に込めていたのかと言うとこの作品の狂気の意味が分かってきたような気がした。

そしてそれをカメラに映す、"カリム・ハッセン"の撮影技術も中々なものであった。「大脳分裂」と言う作品でデビューを飾ってから、カナダのホラーやスリラーの撮影監督または映画監督・脚本家として活躍してきたからこそ作れる映像技術だなと感じた。

「ポゼッサー」をまだ観れてないので後で観てみるが、ブランドンが本作で描くカニバリズムな性は今見てみると、もろ日本が抱える問題にも照らし合わせる事が出来るとなると、また違う視点での恐怖を感じとれる事ができた。

父親の作風を立派に受け継いでいるのだなと感じました。
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