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アンチヴァイラルのslowのレビュー・感想・評価

アンチヴァイラル(2012年製作の映画)
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唐突に映し出されるのは、すこぶる具合の悪そうな顔で遠くを見つめる青年の姿。彼の身に一体何が起こったのか、起こっているのか、起こるのか。退廃的で病的で、時に神秘的にさえ見える世界。とてもこの世の沙汰とは思えない屈折した現実でも、耳を澄ませばその足音は確かに聞こえる。

現代日本にも多く存在する、夢中になったものに対して惜しげも無くお金を注ぎ込む人々。それがアイドルのグッズなのか、アスリートの試合なのか、教祖様のありがたい水なのか。少しでもその人に近付きたいと思う欲求は、豊かさに比例して広まる贅沢の延長なのかもしれない。本作でそれに当たるのはセレブから採取したウイルスである。憧れのセレブ経由のウイルスに感染したい。同じ病気にかかりたい。異常な心理にも思えるけれど、先に言ったような欲求と大差ない気もしてくる。好きな人の風邪ならうつっても構わないと、思ったことある人も多いのでは。これは過熱の一途を辿る贅沢への警鐘でもあるのかもしれない。

作品の世界観は、大好きな『THX-1138』をちょっと感じさせる無機質な映像と雰囲気。そこに対極のイメージがあるクローネンバーグの血が通うことで、不気味な化学反応を起こしている。父であるデヴィッド・クローネンバーグの最近の作品よりは、この息子ブラントンのデビュー作の方が好みかも。それにビジュアル的に似た表現はあっても、突き詰める部分は父と息子でけっこう違っていたように思う。完全に人を選ぶ映画なので、父クローネンバーグにぞっこんだという人には、とりあえず観てもらいたい。
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