SatoshiFujiwara

間諜X27のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

間諜X27(1931年製作の映画)
3.6
松岡正剛がディートリッヒの自伝から引用していた下りをさらに引くわけだから要は「孫引き」ってことだが、ディートリッヒに言わせればスタンバーグがディートリッヒを自分好みの役者に完璧に創り上げたような例は、他にはヘルムート・バーガーを徹底してああいうキャラクターに仕立て上げたヴィスコンティあるのみ、だという。

正直言えば今観るとかったるい演出だし(律儀な古典的なショット連鎖とか緩いオーバーラップの活用、たるい展開など…)、脚本にもよく分からないというか腑に落ちない点はあるが、ディートリッヒの神話的な輝きとヴィクター・マクラグレンを観るだけで価値がある(リー・ガームスの陰影に満ちた撮影がその輝きをさらに引き立たせる)。

個人的にはイヴァノヴィッチの『ドナウ川のさざなみ』のその都度違ったアレンジでの登場(ディートリッヒが2度目に弾く際には、ピアノの位置に据えられた固定カメラに向かって足早に向かって来て顔の超クローズアップとなり、直後怒りに任せたように乱暴に弾き始めるシーンは戦慄的だ…)、またはベートーヴェンの『月光』第1楽章の普通ではありえない激烈な演奏がストーリー展開において心理的な意味を担っている点に1番興味を惹かれた。当時のハリウッド映画ではクラシック音楽がよく使われて、かつ何らかの意味を担わされていた。

古典とは常に新しい発見があるものの謂いだが、このスタンバーグ作品などはちょっと古びたかな…。80年前の作品である。古典的な価値と今観て面白いか、は必ずしも一致しない。むろん80年前でもやたらと面白いものもあるし、新しくてもつまらんものもいくらでもある。当然だけど。
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