ゆみな

男として死ぬのゆみなのレビュー・感想・評価

男として死ぬ(2009年製作の映画)
3.5
2回目の観賞。
中年ドラァグクイーンのトニアが、息子ゼ・マリアや恋人ロザリオ、周囲の人々との交流しながら、病によって命の終わりが近づいた時に、自分の人生を振り返り「男として死ぬ」までを描くお話ですね。

この映画はストーリーってあんまりないんですよね。トニアを取り巻く環境と、彼女(彼)の心の迷いや葛藤を主に映していくわけなので。
冒頭、ペニスをヴァギナに変換する…性転換手術の説明を折り紙でわかり易く説明してくれるんだけど、何故かってトニアは胸にシリコンを入れお尻にパットを入れ女装をして生活をしているものの、未だにペニスだけは手放せずにいるからなんですね。
女として生きたくて仕方ない反面、男の部分も切り離すことは出来ない。薬物依存症で手のかかる若い恋人ロザリオに母性を見せながら、自分のことを嫌っている息子ゼ・マリアには父性を感じているのかもしれない。いや、違うか…父性と言うよりも父親で居なければいけないと思っていたのかも。

トニアは仕事を辞めて、ロザリオと愛犬…そして野良犬と一緒に旅に出る。その時既に病に侵されつつあるんだけど、彼女の胸から滴り落ちる白い液体がまるで母乳のように見えるんだよね…そして追い打ちをかけるように流れ出る赤い血がトニアを追い詰めていくのだけれども。

トニアは胸のシリコンの摘出手術を受け、自分自身の最期の姿を選択することになる。ラストシーンがとても美しく清々しく余韻の残るものになっているので、これは是非観賞してもらいたいですよね。

個人的に好きなシーンはロザリオが野良犬と一緒に海でトニアを追うシーン。トニアが居なければ彼もまた只の迷い犬なのかもしれないなぁ…って切なくなった。と、同時にこの先ずーっと一緒に眠ることを選択した彼が愛おしくなった。

森の中で流れるbaby deeの「Calvary」がいいよ。あそこだけ異空間。
ゆみな

ゆみな