yukihiro084

エンディングノートのyukihiro084のレビュー・感想・評価

エンディングノート(2011年製作の映画)
4.8
父は10年前に癌で逝った。

薬のせいか、癌細胞のせいか、
意識が混濁していた父がある晩、
右手をぴーんと天井に伸ばした。
必死の形相だった。
『くっそ!届かない』と父は言う。
聞くと、ドアノブに手が届かないと言う。
見上げると、火災報知器らしきものがあるだけだ。
『オマエも手伝え!あのドアを開けて、ここから
出て行くんだ!こんなとこで死んでたまるか!』
ベッドから起き上がれない痩せ細った父は、
何度も何度も火災報知器に向けて手を伸ばす。
だから、僕も一緒に、火災報知器に手を伸ばす。

(エンディングノート)2011年の作品。
劇場で鑑賞。父の死から3年が経っていた。
是枝監督の制作助手をしていた砂田麻実監督の
監督デビュー作。末期癌となった監督のお父さんの、
家族に迷惑をかけまいと、自分が逝く日までの
準備の日々と、家族の絆を、実の娘が、丹念に、
優しい眼差しで撮りあげたドキュメンタリー。

太陽みたいなお父さんに笑顔になる。
日本のサラリーマンを絵に描いたようなお父さん。
段取り、準備、几帳面に準備をしてゆく。
まるで自分の死が、会社の重要な会議か何かのような
仕事ぶりのお父さん。お父さんの柔らかな空気感が
そのまま、この作品の空気感になってゆく。

カメラに映っていたのは、死よりも、圧倒的な愛でした。

そう言えば、父は、最後は苦しまずに
眠るように逝った。ドキュメンタリー向きじゃないかも
しれないけど、それでも穏やかな顔で逝った。
そんな悪くない最後だったよね?と聞いたら怒るだろうか?
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