アラサーちゃん

海がきこえるのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

海がきこえる(1993年製作の映画)
3.9
上京して半年の大学生・杜崎拓は、最寄り駅のホームで高校時代の同級生である武藤里伽子によく似た女性を見かける。同窓会のため高知に帰省する道中、彼女への想いを噛み締めながら、彼女とともにあった自身の高校時代について回想する。1993年、日。

この作品の魅力は、なんと言っても高知という素晴らしい舞台と、元祖ツンデレと言っても過言ではない武藤里伽子のキャラクターにあると思います。

「私、生理の初日が重いの。貧血起こして寝込むこともあるのよ」
「壁紙なんか濃いグリーンなのよ!私、グリーンって大嫌い!」
「東京に会いたい人がいるの。その人はね、お風呂で寝る人なんだよ」

これが私の中で武藤里伽子の三大名言であると思ってます。

勉強もスポーツも万能の美少女。わがままでツンケンしていて、ああ言えばこう言う。だけど、大人の事情に巻き込まれた憐れさを時折見せるところが物憂げできっと拓は惹かれるんだよね。なんかもうここまで極端だと必然的に好きになるんだと思う。

上の名言もなかなかだけど、文化祭で吊し上げにあった時に相手をこてんぱんに言いくるめる彼女の口達者具合もすごいです。

その吊し上げのシーン、大人になるにつれて納得できて、すごく大好きなシーンになった。表面しか受け取れない子ども時代はこの拓が大嫌いだったんだけど、今はこの拓こそ一番好き。

拓が校舎裏に行くと、女子に囲まれている里伽子がいる。でも拓は物陰に隠れたままそれを見物する。
里伽子の勝利で事が終わって拓が通りすがると、里伽子がすごい形相でいつからいたのかと問い詰める。初めから見ていたことを白状し、からかうように里伽子を褒め称えると、飛んでくる平手打ちと「バカ!あんたなんか最低よ!」のセリフ。
泣きながら走り去る里伽子と入れ替わるように松野が現れて、里伽子の涙の理由を問われ、拓はわざと明るく状況説明をする。「お前、止めんかったがか」と睨む松野に拓が肯定すると、松野は拓を殴り倒す。そして「お前、バカや」とセリフを残して去っていく。

このまま拓は二人と喧嘩別れしたまま卒業するんだけどもね。
この松野の「バカや」のセリフが昔は分かっていなかった。里伽子を救わなかったことに対しての発言だ思ってたんだよね。でも、いつか観たときにハッと気付いて、「そっか、この時きっとすごく拓は里伽子を助けに飛び出したかったんだろうな」って。

拓は里伽子を助けに行かなかった。なぜなら里伽子は松野の好きな人だったから。でも、助けに行かなかったことで逆に、松野は拓が里伽子に惹かれていることに気付いてしまう。
まさか吊し上げっていうエピソードで、この三人の三角関係が映しだされるなんて思わないじゃん。こんなにも甘酸っぱくて、はがゆくて。

この意図に気付いた時、ますますこの作品の魅力にどっぷりつかってしまったな。
この年になって観ると、お風呂で寝るくだりとか、同窓会シーンとか、どれも青臭くて瑞々しくて素敵だなーって。こんなフレッシュさってないもんね。まあそれにしたって同窓会シーンの彼らは18、19歳とは思えない大人っぷりでしたが。

原作と違ってアニメは拓と里伽子の再会後はほとんど描写されない。でもこのアニメのキーポイントは、拓のナレーションで彼女の呼び名が、高校時代の「武藤」ではなく「里伽子」に変わっていることだと思う。
同窓会では彼は彼女の話題のなかでまだ「武藤」と呼んでいるから、彼女を「里伽子」と呼ぶこの拓のナレーションはまたそれを回想していることを示していて、回想している時点では拓は彼女を「里伽子」と呼ぶ関係になっている。んー、それを想像しただけでキュンとできる幸せね。

結局好きすぎて語ってしまう。でも語りたいことの一割も語れてない。悔しい。