ピト

おとぎ話みたいのピトのレビュー・感想・評価

おとぎ話みたい(2014年製作の映画)
4.5
打ちのめされた。
それも力まかせのパンチの連打だけじゃなくて、急所を狙った正確なフィニッシュブローでマットに沈められた感じ。

東京に憧れダンスの道を夢見る少女と、図らずもその背中を押してしまい少女に新たな言葉と哲学と恋心をもたらす男性教師。
その物語にバンドのライブシーンがシンクロしていく。

地方都市の鬱屈、少女から大人への通過儀礼、やがて青春が爆発する瞬間までの圧倒的な55分。

コワすぎシリーズの白石晃士監督が、注目してる若手監督に山戸結希監督を挙げ「群を抜いた天才」と言ってるのを聞いて、ナンボのもんじゃいと思って観てみたら見事に返り討ちにあいました。

ただの青くさいパッションと初期衝動による青春映画と思わせといて、実は確信犯的なあざとさで記憶の深いところを抉ってくる。
まんまとヤラれちゃった事に気づいて少し恥ずかしい反面、確実な仕留め方を体感的に知ってるこの監督の凄さに単純に感心させられる。

合う合わないがあるのは当然なので、誰しもの心を揺さぶるモノじゃないかもしれないけど、冒頭矢継ぎ早に繰り出されるモノローグに心を掴まれたら、その後確実に打ちのめされると思う。


予備知識ゼロで観たので『おとぎ話』とか言う抜群に華のないバンドが実在するのを観終わってから始めて知った。
なぜならエンドロール後に彼らのMVが始まるからで、しかもこれがまたとても良かったので更に参ってしまった。

物語の延長線上の世界観の中、涙を流す主人公がまるで自分に纏わりつくモノから解き放たれるように踊り出す。
東京のど真ん中、銀座の中央通りをクルクルと伸びやかに踊りまわる様をモノクロのワンカットで追いかけていく。
街灯とネオンが灯り出したものの空はまだ明るくて、夕闇せまる中のひと時の煌めきたちは、少女から大人になる瞬間と同様キラメキに満ち溢れてる。

本編に続いてこのMVが納められてる事からも、これを含めて一本の作品なんだろうと思う。
物語のエンディングに相応しい完璧なMVだった。

彼女の他の監督作はまだ観た事ないので、これがたまたま突き刺さったのか、はたまた本当に天才なのかは分からないけど、この映画は少なくとも私にはザクザク突き刺さる何かがパンパンに詰まっていた。


初見は圧倒されちゃって終わった瞬間すぐさまもう一回観ちゃったけど、2回観てもレンタネコと同じ110分と思うと5兆倍はお得です。
ピト

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