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マレフィセントののらのレビュー・感想・評価

マレフィセント(2014年製作の映画)
3.5
眠れる森の美女の悪役であるマレフィセントの視点で描かれた眠れる森の美女の実写化映画。

このマレフィセントというキャラクターはディズニーの世界では、しばしば悪役達の親玉として扱われる。しかしその一方で悪役の中の悪役にも関わらず正体がよくわからない存在になっている。これは原作にあたる眠れる森の美女で、その辺りの説明がされていないのが原因になっている。実際マレフィセントはオーロラ姫の誕生の宴に自分だけ招待されなかった事に怒り、オーロラ姫に呪いをかけるわけだが、では何故招待されなかったのか?という部分が "悪い魔女だから呼ばれなくて当然でしょ" といった処理のされ方をしているため明かされていない。

他にも本作でも使用されている主題歌 Once Upon A Dream において王子と初めて出会った時にお互い夢の中で会っていたという台詞があるが、何故お互いが夢の中で会ったのか?それについても説明がない。

この物語における行間の隙間の多さは眠れる森の美女の欠点とも言えるが、それと同時にクリエイターにとっては想像力を掻き立てる題材とも言える。

本作は眠れる森の美女の数十年前からスタートする。実写版の世界では妖精たちの国(ムーア)と人間たちの国が対立している事になっている。そこで国を護る役割を担っていた翼を持った妖精マレフィセントは、後にオーロラ姫の父親になるステファンと恋に落ちる。しかしステファンはマレフィセントを殺した物に王位を継承するという言葉に目が眩み、マレフィセントの恋心に乗じてマレフィセントを眠らせ、その翼を切り落として王に差し出して、王位を継承する。そして暫く後オーロラ姫が誕生する。

ここまでの話の作り方は上手く、オーロラ姫の誕生の宴に何故マレフィセントだけが呼ばれなかったのかがよく分かる作りになっている。つまり話の導入部でディズニー史上最大の悪役であるマレフィセントが何故誕生したのか?という本作における最大の関心事が解決してしまう。そして本作は眠れる森の美女のエピソードへと進んでいく。

問題はここから話がおかしな事になる点だ。例えばオーロラ姫の誕生を祝うシーンでは、戦争状態にあるはずのムーア国から3人の妖精がやってきて姫に祝福を授けたりとストーリー上の矛盾が発生する。

さらに問題なのはマレフィセントがかける呪いにある。本来マレフィセントは死の呪いをかけて、それを3人の妖精が呪いの効力を死から眠りに弱めるという展開だったのが、本作ではマレフィセントは最初から眠りの呪いをかけてしまう。

さらにおかしな展開になる、本来オーロラ姫が3人の妖精に預けられるたのはマレフィセントに見つからないようにする為だったはずが、最初からマレフィセントに見つかっている上に3人の妖精がポンコツすぎるために、結果的にマレフィセントがオーロラ姫を育てる展開になる。つまりオーロラ姫は何から守られなければ行けないのかが良くわからないのだ。

また主題歌である "Once Upon A Dream" に関しても、本作ではそれに関わるエピソードが追加されている。オーロラ姫がマレフィセントに初めて出会うシーンで、この曲の歌詞を連想させる台詞を言わせているが、このシーンで BGM としてこの曲の旋律をまったく使ってない為に上手くリンクしてない。

それでマレフィセントの生い立ちないし、何故オーロラ姫に呪いをかける動機の部分まではストーリー的に非常に良く出来ている。しかしそれ以降の部分に関しては眠れる森の美女の現代的なしは、新たな解釈というよりも改変ないしはオリジナルストーリーに近い状態になってしまっている。そのため驚きよりも、そこ変えたらダメなのでは?といったマイナスな印象しか受けない状態になってしまっている。

またオーロラ姫と父親の関係性がと描かれてない点も気になるところだ。ステファン王にとってはオーロラ姫の事よりも、自身の保身の方が勝っていることを強く印象づけ、オーロラ姫がその事に絶望するという描写を入れ無いために、ラストの展開が飲み込みづらい結果になっている。

ビジュアル的にもフルCGの部分と人間が演じてるキャラクターの合成が甘かったり、ロケやセットで作られた背景とCGで作られた背景の質感にかなりの違いがあったりと、決してクオリティは高くない。

またオーロラ姫の誕生のシーンも眠れる森の美女の同シーンを再現しようとしているのは分かるが、再現度が中途半端で違いが目立ってしまっている。

さらに王子が使えない役立たずとして描かれている点も疑問で、このモチーフはディズニーの近作で多用されているが、そろそろ現代的な王子を提案しても良いのではないだろうか?

ただアンジェリーナ・ジョリー演じるマレフィセントは非常に魅力的だ。特にオーロラ姫を見守る目線が、完全に母親のそれで。クライマックスの展開に効果的に効いている。ムーア国の守護者としての攻撃性と母性を両立していてキャラクターとして非常に魅力的だ。これは母親でもあるアンジェリーナ・ジョリーにしか出来ない役だろう。

オーロラ姫を演じるエル・ファニングもやんちゃでありながら童顔なので、現代的な姫としては適役だ。本作はある意味においてキャスティングの妙でもっている映画と言って良い。

マレフィセント誕生までのエピソードは良い。またそこ以降のエピソードも眠れる森の美女の実写化でなければストーリー展開自体は悪くなく。眠れる森の美女よりも現代的で真実の愛とはなんなのかという点では良く描けている。しかし問題なのは眠れる森の美女の現代的なアップデートとしてどうなのか?と言われると首を傾げざるを得ないのが本作を微妙にしてしまっている。
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