継

デタッチメント 優しい無関心の継のレビュー・感想・評価

5.0
あんな経験は初めてだった
あれほど自分自身から解き放たれ
同時に心から “生きている” と実感したのは. - A.カミュ-

ヘンリー・バース(ブロディ)は、常勤の教員が赴任するまでの僅(わず)かな期間を担う臨時教員。
“秩序を保ち、教室で殺人事件を起こさせない事が仕事” と無難に任期を終えるべく、生徒や教員とは一定の距離を置き深く交流しないのが流儀なのだが、
家出少女やいじめにあう生徒、問題を抱える教師との出会いによって彼の中で少しずつ何かが変わっていく。。。

映画は、荒廃した公立校で苦悩する教師や生徒、無責任な親の姿を通じて危機に瀕する教育現場を映しますが
その焦点は、あくまでヘンリーの心の機微・感情の揺らぎを撮らえる事に当てられます。
ナレーションを兼ねる疑似インタビューを要所要所に挿入する事で、説明を省いたドキュメンタリー然として進むストーリーは生々しい迫力に満ちて、デリケートな感情表現には胸を締め付けられる思いが。
'98年『アメリカン・ヒストリーX』から実に13年、
寡作な、しかし彼にしか撮れない切り口でアメリカを蝕(むしば)む病巣をえぐり出す、トニー・ケイ監督作品。


“報われること” をほとんど描かない本作は、映画としては暗く面白味に欠けるかもしれませんが、
“教育” について、これほどリアリティを持って真摯に真正面から対峙した作品はちょっと他に思い付きません。
好き嫌いとかじゃなく自分にとっては大事な映画、です。

“至急...” と言う、留守番電話のメッセージが意味すること。
それでもエリカを、ある決意を持って迎えに行くヘンリー。それはかつての彼では考えられないことだったはず。
冒頭のカミュの言葉は、ヘンリーに導かれた少女・エリカの心の声に聞こえます。
穏やかに差し込む光は、本作で描かれた唯一の救い。
綺麗なカットでした。
継