こたつむり

バーニー みんなが愛した殺人者のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.1
★ ウソだと言ってよ、バーニー。

とても評価に困る作品でした。
ジャック・ブラック主演のコメディ…とだけ耳にしていたのですが、実際はドキュメンタリータッチのドラマ。笑える場面は皆無に等しく(テキサス州を紹介する場面は別)重苦しい雰囲気が漂っているのです。

物語としては、実際に起きた事件(住民から評判の良い葬儀店員が大富豪の女性を殺害した)を淡々と描いたもの。だから、コメディ要素の入り込む余地がないのも頷けます。

本作を仕上げたのはリチャード・リンクレイター。既存の価値観に挑む監督さんですが、本作でもそれは同様でした。“映画”としての面白さを追求するのではなく“テーマ”を浮き彫りにする演出を選択しているのです。

それが顕著なのが“住民たちの声”。
葬儀店員《バーニー》の評判。大富豪の女性《ニュージェント夫人》の評判。事件を取り扱う検事《ダニー》の評判。それらを頻繁に挿入することによって、彼らの人間性を際立たせる…そんな手法なのです。

ただ、それが物語に馴染んでいたかと言うと…微妙なところでした。やはり、映画である以上は“想像できる余地”を残してもらいたいのです。でも、逆に言えば、監督さんのメッセージはストレートに伝わってきましたよ。

それは
「善行を積んだ人の犯罪は赦されるのか」

多くの人は“彼”に同情することでしょう。
場合によっては「無罪」と言い切るかもしれません。しかし、本当に善人だと言い切れる保証などないし、善人であるから法を超えても良いわけではありません。

やはり“人が人を裁く限界点”は存在するのです。本作はそれを痛烈に突き付けてくる作品でした。

まあ、そんなわけで。
「保存料・合成着色料は使用していません」と謳った自然派食品のような物語(但し、pH調整剤は入っています)。鑑賞する際は“客観”を念頭に置いた方が良いと思います。

あと、余談ながらに。
《ニュージェント夫人》に誰かの面影を感じたと思ったら『アパートの鍵貸します』のシャーリー・マクレーンだったのですね。あの作品から50年が経ったことを考えると…色々と感慨深いものがありましたよ。
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