ニャーニャット

しわのニャーニャットのレビュー・感想・評価

しわ(2011年製作の映画)
4.2
ジブリから出てたDVDで鑑賞。
スペインのアニメーションのクオリティにまず驚き。あんまりアニメーションを作ってるイメージがないからそもそもアニメーターとかいるのかなっていう浅はかな認識だったんだけど、この映画に認識を一新される。
また、「しわ」の舞台は老人ホームで、主人公はアルツハイマーの老人。可愛い女の子もヤンチャな少年も出てこないすごい挑戦的な題材。めちゃくちゃたくさんアニメーション映画が作られている日本で、こんな題材を扱った作品がひとつでもあったか考えると、頭を抱える。アニメ産業云々の前に映画産業、文化の豊かさの問題でもあるんだろうけど。
「カッコーの巣の上で」の精神病院のように、社会の縮図、メタファーとして描くために閉鎖された施設をカリカチュアとして過剰に抑圧的に描く手法もあるが、「しわ」の舞台である老人ホームは、職員も親切で手厚く、むしろ老人ホームとしては非常に行き届いた部類である。そんな一見何の問題もなさそうな施設を描くことで、むしろ高齢化問題そのものの本質をあぶり出す。誰も使わない水の張られたプールになどはその最たるもので、現場の意識はどうあれ、ホームは入居者の家族やお役所が「お客さん」であり、目が向けられる。

主人公の一人であるミゲルは、ドローレスとモデストの関係に関する解釈であったり、他のホームの老人に接する態度に見られるように、すごくリアリストな振る舞い、考え方を披露する。しかし、その本質は、アルツハイマーの進行による友人の喪失、自己の喪失を極端に恐れた自己防衛反応でしかない。それは、重度介護状態の人が集められる「2階」への過剰な恐れからも見てとれる。これがもう一人の主人公であるエミリオや同じグループのアントニアとの交流から、改めて「生きる」ことに向かい合う勇気を手に入れる。
死期の近い遠いこそあれど、この映画も一人の人間が実人生を取り戻すという物語の普遍的テーマを扱っていることに変わりはなく、観るものに何かしらの共感をもよおすだろう。