ひこくろ

エマニエル夫人のひこくろのレビュー・感想・評価

エマニエル夫人(1974年製作の映画)
3.4
一世を風靡し、ある世代の人たちにとっては「エロ」の代名詞とも言える作品だけにずっと気にはなっていた。
今回ちゃんと観てみて、ああこれはたぶんフリーセックスの考えを根底に敷いた映画なんだな、と思った。

とかく世の中ではセックスについては大っぴらにされないものだが、実際のところは、みんな好き勝手にセックスしてるもんだよね。
みたいなメッセージが映画のあちこちから伝わってくる。
他人のセックスを覗いては興奮しセックスし、スポーツしてはまた興奮しセックスし、退屈だと感じてはセックスする。
主人公のエマニエルを除いては、誰もがひたすらセックスにいそしむ。

そんななかで、エマニエルはセックスをどう捉えていくのか。
勝手に中年女性をイメージしていたが、エマニエルは、若くてコケティッシュでとてもかわいい。
まるで少女のような彼女が、さまざまなセックス、愛の形を経て、どうなっていくのかは興味深かった。
彼女の浮気を歓迎する変態的な夫。性になんら罪悪感を抱いていない純粋な少女。
性の深い世界を知り尽くした達人マリオ。
かなりあくの強い彼らによって、性の新しい世界が次々と開かれていくのも面白い。

なかでも、特に印象的なのは考古学者ビーとの関係だろう。
二人の間では愛が説かれ、それまでとは違う一面が浮かんでくる。
ただ、もったいなかったのは、ここにも具体的な肉体関係を持ち込んでしまったところだ。
ここを「肉体関係のないセックス」としたら、夫ジャンの嫉妬や、ほかのセックスももっと際立ったと思う。
このままの形でそういう風に描けた、と感じただけに、余計にその思いは大きい。

後半はフリーセックスの概念が事細かに語られる。
セックスは人の精神も感覚も高める。その深さを知るためにも1対1では足りない。
自由にセックスすることで、常識や狭い世界を打ち壊すことができる。などなどだ。
賛否はあるだろうが、考えは一貫していて、結局、エマニエルはラストでフリーセックスの世界に完全に目覚めてしまう。

とはいえ、やたらと無意味に裸になるのには辟易したし、やっぱりセックスしすぎだろうとは思った。
にしても、こんなにもセックスだらけの映画は、当時としたら衝撃的だっただろう。
面白いかどうかは微妙だとしても、それだけは確かだと思う。
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