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静かなる叫び(2009年製作の映画)
3.8
 凍てつくような寒さの冬、雪が降り積もるモントリオール郊外、大学内のコピー機の前に出来た長い列。平和な光景に突如鳴るけたたましい銃声。友人と隣同士でコピー機の前にいた女学生は肩越しを撃たれ血だらけで倒れ、もう1人の学生は耳を撃たれ助けを求めていて彷徨い歩いていた。ベッドに座り、散弾銃をこめかみに当てた1人の男(マキシム・ゴーデット)。だが男は引き金を引くのを躊躇っていた。共同下宿の冷蔵庫を開けたまま、呆然とする男の表情は鬱々としている。15分で書いた遺書めいたポエジーと懺悔。そこには「フェミニストをあの世へ送る」という狂気じみた差別意識があった。雪に閉ざされた冬の街、ドアを開けても光は差さず、モノクロームの中で男の狂信的な白日夢の世界が疼く。大学の食堂内、どこにも居場所がないまま男は半自動ライフルの引き金を引く。冒頭の狂気じみた殺害宣言のあと、実際に行動を起こす男の残虐非道さは底冷えするような恐ろしい所業である。学生たちの悲鳴を聞いてもなお、無表情な男の攻撃は続いて行く。青年の無軌道な暴走は2003年のガス・ヴァン・サントの『エレファント』よりも、様式的には石井聰亙の1976年の『高校大パニック』を思い出した。

 今作は1989年12月6日、カナダのケベック州モントリオールで起きたモントリオール理工科大学虐殺事件をベースにした衝撃の実話である。犯人はマルク・レピーヌ (Marc Lépine) という25歳の男性で、半自動ライフルと狩猟用ナイフを用いて28人を銃撃、うち14人を殺害(いずれも女性)、14人に怪我を負わせた後、自殺したカナダ最大の銃乱射事件だった。起きた事件は事実だが、今作で焦点を当てられる被害者側の2人はヴィルヌーヴの脚色に依る。負傷しながら生き残ることになるヴァレリー(カリーヌ・ヴァナッス)という女子学生と、怪我をした女子学生を救うことになるジャン=フランソワ(セバスティアン・ユベルドー)という男子学生。親友を殺された後、お腹に赤ちゃんを身篭っていることがわかったヴァレリー、自分がしっかりとした行動をしていれば、もっと多くの人の命が救えたかもしれないと後悔を抱えたまま人生を送るフランソワ。ジャン=フランソワがふと見つめた『ゲルニカの肖像』の絵、窓のそばに置かれた空き瓶の列、ラストの床の奇抜なインテリアまで、ヴィルヌーヴの無人ショットの得も言われぬ存在感には、この頃から後の『メッセージ』や『ブレードランナー2049』への萌芽が見える。
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