ねぎおSTOPWAR

静かなる叫びのねぎおSTOPWARのネタバレレビュー・内容・結末

静かなる叫び(2009年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

実際に起きた凄惨な事件を元に映画化された。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。カナダ国籍。この作品のあとに「複製された男」昨年は「メッセージ」などを製作。
これは主に三人の視点から事件を見せる映画。
(フランソワとヴァレリーは映画化の際創作された部分)

①まずは犯人。
(冒頭自身の心情告白ナレーションから)軍を社会性欠如で除隊させられており、ほぼ間違いなく病気です。
語られる怨みはこう。
士官候補生で残れなかったのは、女性が特権を行使したからであり、それにより自分の人生は無茶苦茶にされたと。
ここに至るまではさして描かれず。


②続いてフランソワ。
真面目に勉強するがなかなかうまく行かない様子。コピー機のシーンからも、お人好しで損するのがわかる。いわゆるフェミニストとして登場?正義感に厚く、結果自責の念に駆られてしまうことに。
壁にかかったピカソの「ゲルニカ」をフランソワが凝視する。これ、絶対なんか意味を持たせていると思う。→後述
最後の母とのやり取りは見ているだけで胸が締め付けられる。


③最後はヴァレリー。
秀才女学生。
オシャレより勉強!なのは同室の友人が服をコーディネートしてくれるエピソードで表現。学校着いてからの靴の履き替えも注目。
就職の面接官は、実は犯人と同じ男女差別の考え方。二人ともに出産の可能性や産前産後の休暇に言及する。こういうのは結構世界各地に普通にある。企業の経営効率を考えれば、人事担当者は止むなしか。・・でも絶対口に出さないと思うけどね。
最後は懐妊。妊娠検査薬をトイレで使う場面、妊娠がわかり戸惑う姿を見せる。人事担当者の言っていた通りになったことを考えているのか?いや、むしろ生き残ったことの恐怖や毎晩うなされるように、死んでいった友達たちのことを思うと辛く、そんな中子供を産んで育てられるかの不安か。そしてその後産むことを決意した表現がある。
投函するつもりのない手紙。犯人の父に宛てた文章。男の子なら愛を教え、女の子なら世界に羽ばたけという・・。


《演出について》
1.二度鏡を使った演出。二度もあると何かを意味する?
一度目は面接官の言葉にトイレ個室で泣き、出てきたところの合わせ鏡。奥からピン送りで最手前に、強い気持ちを持ち直したヴァレリーのアップ。
二度目はうなされて起きたトイレ個室全面の鏡に映る。
2.上記した「ゲルニカ」。
ピカソ自身はこの作品について詳細には語っていないが、一般に「死と再生、人間の愚かさと賢さ、善悪の葛藤・・」などを表現していると認識されている。
3.カメラを90度右に倒した位置から正体に戻すショット。90度左からも。天地逆に湖(?)沿いの道路を撮る空撮。ラスト天地逆に廊下の天井を撮るショット・・・
これら1.2.3.を考えあわせると、ひとつの意図が見えてきますね。決して事件を美化する意図はないと思いますが、全体を俯瞰してしまうと「浄化」している印象です。

ある批評家は、ヴィルヌーヴ監督は大虐殺事件を美しい映像に変えてしまったと賞賛したそうです。
確かに暴力描写のために撮影されたものではない。表現に昇華されていますね。「名作」とはとても言い辛いですが。
ラストに「~被害者・・そして家族や大学関係者に捧ぐ~」とありますが、関係者はとてもじゃないが観られないのではないか。