背骨

静かなる叫びの背骨のレビュー・感想・評価

静かなる叫び(2009年製作の映画)
4.2
1989年12月 モントリオール理工科大学構内で実際に起きた14人の女子学生が射殺されるという銃乱射事件。

その事件をモチーフにドゥニ・ヴィルヌーブ監督が銃撃事件の顛末と事件に関わった犯人、そして事件の生き残りであり、心に深い傷を負った2人の人生を描く。

社会に不満を抱え、フェミニストへ憎悪を抱く犯人。
報われない自分の境遇。
悪いのは自分じゃない誰か。
それが技術職を希望する女子学生に向けられる。全く見当違いな恨みだけど、実際にもこういった事は起きている。

女子学生たちの命を救えなかった事に対して、激しい後悔の念に苛まれるジャン。
彼は1人事件の最中、何人もの人を救おうと奔走するが、それでももっと多くの人を助けられたのではないかとの思いが強く
「あの時、あの行動を取らなければ…」
と、今もそのことが頭から離れない。

事件で重傷を負いながらも生き残ったヴァレリー。
今でも事件の時の恐怖に怯え、あの時友人を救えなかった事、自分だけが生き残ってしまったことに苦しんでいる。
さらに自分の子供を身籠っている彼女は、生まれてくる子供が犯人のようにならないか恐怖に怯えてもいる。

1つの事件が多くの人生を狂わせる。

ここで描かれているのは事件がその後、関係者の人生に及ぼす大きな影響ではあるけど、実はわれわれが生きているこの世界では常に同じ事が起こっている。事の大小は別にして。

1人が行った行動にまわりはよくも悪くも影響を受けて、その後の考え方や行動に繋がっている。そしてさらにその影響を周りが受けて…それがこの世界の法則。

良いとか悪いとか、正しいとか悪いとかじゃなくて、冷酷だけど感情の入る隙間のない事実。そうやって今日もまたこの世界では良い事も悪い事も楽しい事も悲しい事も起きている。

そういったことを登場人物たちの感情のやりとりや極力セリフを廃して淡々と事件の顛末を映し出す事で、ヴィルヌーブは訴えかけてきているように感じた。
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