こたつむり

静かなる叫びのこたつむりのレビュー・感想・評価

静かなる叫び(2009年製作の映画)
3.9
日常を切り裂く銃声。
魂に刻み込まれた爪痕。
モントリオール理工科大学虐殺事件を題材に描かれたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督渾身の作品。

これは…かなりの衝撃作でした。
喩えるならば、ハンマーで何度も後頭部を叩かれるような…絶望的な痛み。痺れるような感覚の先にある熱。娯楽作品に触れるような気持ちで臨むのは…大きな間違い。感動の涙なんて一切ありません。

だから、ヴィルヌーヴ監督も。
配慮が必要だと考えたのでしょう。
衝撃を和らげるような工夫が散見されます。

ひとつに、モノクロ映像であること。
鮮血を目にしないだけで、呼吸が浅くならずに済みますね。助かります。

ひとつに、77分の上映時間。
それでも無限と思えるほどに永く感じましたけどね。助かります。

ひとつに、時系列をいじっていること。
そのお蔭で「本作は映画なのだ」と認識することが出来ますね。助かります。

ただ、そんな優しい配慮も、事件をかき消すわけではなく。事実は事実として歴史に刻み込まれていて。口を開けば声にならない叫びが虚空に消えるだけ。ツラい。ツラい。ツラい。

この事件が起きたのは1989年。
それほど遠い過去の話ではありませんし、動機はともかく似たような事件がアメリカでは繰り返されています。思い返してみれば、日本だって一昨年、戦後最悪の大量殺人事件がありました。

だからこそ、この“痛み”は知るべき“痛み”。
事件を起こした犯人を擁護する必要はありませんが、事件発生に至るまでの軌跡に“可能性”を見るべきだと思います。少なくとも誰かを“あちら側”に突き落とす“可能性”は誰にも否定できません。

それに冬のカナダは寒々しくて。
人は人のぬくもりを求める…そう考えるのが理想論だと思えるほどに、雪はしんしんと降り続けていました。何が正しくて、何が間違いなのか…本当に分からなくなります。

ただ、少なくとも“生きる”ことだけは否定してはいけない…そう思います。
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