Jeffrey

ガーデンのJeffreyのレビュー・感想・評価

ガーデン(1995年製作の映画)
4.0
「ガーデン」

〜最初に一言、悲喜劇に満ちたメルヘン、大人の御伽噺。魔法のような映像世界とグロテスクな癒し、そしてエロティックな奇跡。全14章で始まる摩訶不思議で奇想天外で、静謐かつ混濁の中、終わりを迎える父息子の和解までをあの浮遊する名シーンの余韻を叙事詩的に描いたチェコの傑作である〜

冒頭、夕映に照らされ色付けされた一本の木。これは林檎の木なのか、その庭は祖父の廃墟と化した屋敷。父に言われ息子がやって来た。浮遊、戯れ、自然、車、仕立て屋、謎の日記発、翌日1人の少女が現れる。今、不思議な和解の物語が始まる…本作は巨匠、マルティン・シュリークが1995年に監督したチェコ映画で、日本では2003年に劇場公開されていて、一部のレンタルショップで稀に置かれていることがある。チェコアカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞の4部門を受賞した彼の代表作であり、この度YouTubeにて特集を組むべく廃盤のDVDボックスを購入して再鑑賞したが素晴らしい。てか、俺はチェコ映画がすごく好きなんだと思う。あののほほんとしてどうってことないワンシーンでユーモアを炸裂させる感覚、それと詩的な雰囲気に包まれている感じ、たまらない。本作は全14章で始まる摩訶不思議で奇想天外で、静謐かつ混濁の中、終わりを迎える父息子の和解までをあの浮遊する名シーンの余韻を叙事詩的に描いた傑作である。

本作は冒頭に、夕映の残映に染まる一本の木が象徴的に写し出される。そしてカットは変わり、電話の鳴る音と共に第一章ヤクプの登場と大された字幕が写し出され、ベッドに座り毛布を体にかぶっている姿が写し出される。毛布を取り払うと男の顔が現れ、彼の1人称で物語が説明されていく。そこにブロンドのテレザと言う女性が現れる。彼女は上半身を脱ぎ自分の胸をさらけ出し、男のベッドへと座り込む。そして体を触り始め、男の腕をつかみ自分の胸に押し付け感じる?と言う。それを固定ショットで真っ正面から捉えるカメラ、2人の会話が続く。そこへヤクブ父親がやってきて、自分の客と淫らなことをしていることに対し息子へ怒る。それを横で見ている女は笑っている。カットは変わり、親子が青みがかった色彩のキッチンで食事をしているシーンへと変わる。父はいつ家を出るんだ、ぐうたらしている場合じゃないと一喝する(この時猫がいきなり上からテーブルに落下する)。

続いて、父親はじいさんの庭を売ってアパートを買えと言う。お前にはうんざりだと冷たく遇らう。画面はいちどフェイドアウトして第二章"ヤクプ堕落した街の生活を捨て"と字幕が映し出され、原風景の田舎町の大自然と大空がロングショットで写し出され、そこに真っ赤な車が1台道を通る場面へと変わる。彼は祖父の廃墟の屋敷にやってきたのだ。車から降り、彼は小鳥の囀りが聞こえる古びた扉を無理矢理こじ開けようとする。しかし開かなかったためその扉(門)をまたごうとした瞬間、扉が動き扉ごと地面に落下する(この時美しいメロディーの音楽が流れ、自然のガーデンへと迷い込む彼の不思議なショットが写し出される)。彼は足場の悪い木造の隙間から水が溜まっている下へ落ちてびしょ濡れになる。カメラはこの廃墟をあらゆる角度から捉える。

続いて、南京錠で閉められた扉を持っていた鍵で開けようとするがどれもはまらないため、違う扉から中へと入っていく。しかしまだ外であり、中に入れていない。木材で釘打ちされた窓を無理矢理開け中へと入る。中は暗くて何も見えないため、扉や窓を開けて日差しを取り入れ明かりを入れる。そしてカットは変わり、夜へ。雨が降りぼろぼろの家は雨漏りがひどい。彼は工夫をしてバケツをその場に置いて水をためてそこにあるベッドで眠りにつこうとするが、どうも寝付きにくいようで、ベッドを動かし始めた途端、枕元に古い日記を発見して彼はめくってそれを読み始める。そして翌日、彼は庭にいた犬に追いかけ回され、そこに青と白のボーダーの長袖を着た1人の不思議な少女に助けられる。そして2人の物語が始まる…さて、物語は古い屋敷の庭に存在するミステリアスな世界についての優しいコメディ。仕立屋の息子ヤクプは亡くなった祖父の廃墟同然の屋敷を訪れ、謎めいた祖父の日記を発見、その庭で近所に住む不思議な少女に出会う…と簡単に説明するとこんな感じで、詩的で摩訶不思議な世界へと観客を誘う傑作である。

いゃ〜シュリークの世界観はとてつもなく好きである。この作品においてはどこかしらピーター・グリーナウェイ監督の「数に溺れて」を彷彿とさせるガーデンが写し出される。(冒頭だけだけど)。ヤクブが壊れた屋根の修理をするために、脚立に乗っているところ、少女が自転車に乗っているのにうつつを抜かし、そのまま脚立ごと落下する場面とかもシュールで面白い。それと青い車に雲の模様が写し出されて子供たちを乗せた1台のポンコツ車のファンベルトらしきものが物故割れて、車が動かなくなったところに、ヤクブの庭に現れた彼がその運転手の男に助けてくれと言われ、ボンネットを開けて中を確認しても直す術がないため、彼の赤い車を拝借する場面のやりとりが面白い。後どうってことない父親の髪の毛を庭で散髪する場面もバイオリンの音とともに非常にファンタジックで心和む。そういえばヤクブの父親役の俳優ってメンツェル監督の「スイート・スイート・ビレッジ」に出てたおデブちゃんだよな、とスタッフロール見たらマリアン・ラブダって載ってたからやっぱりそうだ。

その散髪式の件から、ポンコツのあの青い車に乗ってロックンロールを流して息子まで坊主になっていて、レストランに到着して父親がフラメンコをして店が他の客の邪魔になるからと言うことで座っている椅子ごと2人を外に追い出してそれでも歌い続ける2人のシーンはすごく素敵で可愛い。それからリンゴの木で少女とヤクブが戯れる姿も印象的。そんで今回のパッケージのショットにもなっている少女がテーブルに横たわり、宙に浮遊するクライマックスは圧倒的である。その前に訪れる鏡を使った手紙のシーケンスも魅力的である。その前に砂糖をテーブルにばらまいて、そこに文字を書き最後鏡で砂糖をかき集めるときに鏡に映った砂糖の文字が反射して不思議な世界観をそのワンシーンに映し出した中盤あたりから鏡の使い方が天才的である事は証明された。

まずヨーロッパで確実に才能を認められる素質がある中、ほとんどフィルモグラフィがないというのが残念である。独自の美の哲学が込められている本作とその他、見事に本質オリジナリティを与えることに成功した彼がほとんど日本で知られていないのと今も活躍していないのが非常に残念でならない。当時スロバキア共和国大使館が手伝って監督の不思議の扉と言うテーマで配給シネカノンが与えてくれない限りこの作品に出会える事はなかっただろう日本人として。とにもかくにもぜひとも見て欲しいチェコ映画だ。
Jeffrey

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