Masato

ヘッドハンターのMasatoのレビュー・感想・評価

ヘッドハンター(2012年製作の映画)
4.3

イミテーションゲームで一躍有名監督となったモルテンティルドゥム監督のハリウッド進出前最後の作品。この作品が評価されてハリウッドに渡ったのだと誰もが確信できる傑作で、世界で凄まじく評価された作品。

表向きは有能な人材をヘッドハントするヘッドハンター、裏ではそうした有能な人材の裕福な資産のひとつである絵画を盗み、売りさばくプロの泥棒。薄利多売でやっていたが、今後の将来を鑑み、デカイ案件を一つやり遂げて引退しようとしていたその時、ヤバい奴を相手に盗みを働いてしまう…

という話。主人公がバリバリ犯罪者の泥棒だが、ここで上手いのが盗む相手が金持ちだということ。これが庶民から強奪するやつだったら好感もクソもないが、金持ち相手なら、盗んでもそこまで悪印象は持たれない。その上、変にカタギというものに縛られずにスリリングな展開に持って行かせることができる。これがうまい。

前にヒットした「ドントブリーズ」も、主人公をいかに感情移入させるかで生い立ちや現状を語り、その上盗む相手をもっとヤバイやつにすることで、主人公の悪事に対して悪いイメージを付きづらくするような作りをしていたが、これも同じ。

主人公の行動原理が丁寧に語られるので、見ていて感情移入しやすいのも良い。ここらへんは韓国映画とかに似ていて、主人公の絶望的な焦燥感をうまく体感させるように作られている。

かなりのスリラーで主人公が序盤の着飾った見た目とは裏腹に、どんどん嫌なことをせざるを得ない状況になり、見た目がだんだんと堕ちて汚くなっていくのが良い。裏で汚い金を稼いだ欺瞞に満ちた人生が剥がれゆく様が物理的にも表現されている。

どんでん返しも素晴らしく、決して追い込まれていくだけではなく、その巧みなずる賢さで完全に劣勢の立場でありながら立ち向かっていくあたりも面白い。

意外とこうした物語なので、奥深さに欠ける話かと思いきや、自らのコンプレックスを隠し、欺瞞と金で生きていくことの愚かさが描かれていた。いままでに様々な実録系の詐欺師などの映画を見てきたが、殆どは自分に自信がないから、騙して虚飾の人生を送るという人物だった。自分に自信がない人ほど、人間が本来持ち合わせないもので補おうとする。持ち合わせないものとは、金でもありファッションでもあり、地位や名誉でもある。そんなもので飾ることは愚かで、もっと自分に自信を持ち、人間の持つ本質で人を愛していくことの意味というものが描かれていた。

巧みなストーリー、奥深いメッセージ、スリリングな体験、アクション、絶妙な作風、テンポが良く丁寧な作り。これは間違いなく高水準の傑作。

ワルドゥさん良かった。ブシェミ顔の主人公も良かったね。
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