MasaichiYaguchi

もうひとりの息子のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

もうひとりの息子(2012年製作の映画)
3.8
是枝裕和監督の代表作の一つに「子どもの取り違え」を題材にした「そして父になる」があるが、第25回東京国際映画祭で東京サクラグランプリと最優秀監督賞を受賞した本作では、イスラエルとパレスチナという対立関係の民族間でそれが起こっているだけに事情は複雑だ。
作品そのものはフィクションだが、湾岸戦争勃発時の混乱の最中では実際に「子供の取り違え」が何件もあったとのことで、それをモチーフに映画が製作されている。
映画は18歳になった2人の若者の夫々の生活環境を描くことにより、この2組の家族を対比させている。
フランス系イスラエル人家族で育ったヨセフは海水浴用のビーチもある都会的なテルアビブに暮らし、一方パリの大学の医学部に合格したヤシンは大きな壁と検問所で「外界」と隔てられた中東らしい古い家並が広がる「占領地域」に暮らしている。
恐らく、この2人の若者やその家族は「取り違え」が露見しなければ、壁の「向こう側」と「こちら側」に分かれ、一生交わることなく終えたかもしれない。
「取り違え」が判明してから、2つの家族は大きく揺れ動き始める。
母は未だ見ぬ実の息子に思いを馳せて泣き、父は恰も息子を失ったかのように呆然自失し、当事者である息子たちは今までの生活ごとアイデンティティが無くなってしまったかのように失意の中にいる。
今まで対立する民族の子供を育ててきたことが尚更2組の家族に動揺を与える。
だが、「女は弱し、されど母は強し」ではないが、18年間という空白や、イスラエルとパレスチナという民族の違い、そしてテルアビブと占領地域との間に横たわる大きな壁に先ず母親たちが向き合っていく。
そして、それを契機に息子たちや頑なだった父たちにも変化が訪れる。
本作を観ると、「親の愛は海よりも深く、山よりも高し」という言葉を改めて噛み締めてしまいます。