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身をかわしてのwtson322のレビュー・感想・評価

身をかわして(2003年製作の映画)
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主人公は、低所得者であり、移民である少年少女たち。彼らは経済的にも社会的にも緊迫した状態に立たされている。ラスト近く、警察のガサ入れシーンは、数少ない「大人」が画面に満ちるシーンだ。露悪的なほどに高圧的な態度をとる警察に対し、彼らの体当たりの反抗が目に痛い。
実際はスラム近くに住む貧困層でも、「演じること」で階級社会上位の貴族に成り切ることができる。貴族言葉で述べられる大仰な愛。たとえそれらが虚構だったとしても、ことばは実体を形作る血肉となる。リディアへの思いを「演じること」に乗せたつもりのクリモ、しかしそのセリフは「役柄」の持つ感情であるゆえに捉えどころがなく、自分のことばにすることも、他のことばを借りることもできない感情は行き場を失う。
戯曲の稽古シーンの合間には、教室の外、スラム近辺の人間関係のもつれあいが広がってゆく。若者言葉とスラングがまくしたてられる口論シーンの間には、彼らの顔ギリギリまで寄るカメラが侵入する。ズームアップは生なましい応酬を経てことばが彼らの血肉となる過程をすくいあげ、感情や景色を浮遊させない。
ときに肉体次元を飛び越えた暴力性を持つ「ことば」は、同時に実体が見えないゆえの虚構性を持つ。そんな二面性と情動に翻弄されるティーンたちをスリリングに描写した傑作。
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