ラウぺ

スノーピアサーのラウぺのレビュー・感想・評価

スノーピアサー(2013年製作の映画)
4.0
化学薬品によって温暖化を食い止めようとした人類はその反動で地球が酷寒の世界と化し、人々は走り続ける列車の中だけで生き延びていた・・・

豪華なキャストと奇想天外な設定が興味を引きましたが、あまりに突飛な設定で劇場で観るのは辞めたのですが、『パラサイト』を観たことでレンタルで鑑賞。
結論から先に言えば、これはなかなかの傑作。

世界が凍て付いてるのに列車の中だけで人類が生存できるとは一体どういう設定なのか、線路の保守は必要ないのか、列車の動力源はどうなってる?などと、当初は誰もが突っ込むはずの設定ですが、そこはまず黙って世界に入り込まなければいけません。
列車の最後部は最下層の貧民が住み、先頭に行くほど富裕層が住む、という設定はそのまま社会の縮図としてのメタファーとなっています。

列車は一種の永久機関という設定のようですが、列車内で生態系の循環が確保され、一切の社会的矛盾や格差を内包しつつも、外部からの影響なしに人類の生存を保つことができるようになっているのです。
この際、線路の保守というところは置いておくとして、列車=地球のメタファーとなっているわけです。

地球が凍結してから18年近くの歳月が流れ、中には外の世界を知らない世代も居るわけですが、最後尾の住民は虐げられ、不満の頂点にあり、過去にも反乱は起こっていて、その都度鎮圧されてきた経緯があるとのこと。
列車の先頭には開発者のウィルフォードが君臨し(これが本当に実在するのか半信半疑だったりする)、最後尾の長老格の人物にジョン・ハートが、新たな反乱を計画している首謀者にクリス・エヴァンス、子供を先頭に奪われた母親にオクタビア・スペンサー、列車のセキュリティシステムの開発者としてソン・ガンホ(ソン・ガンホの娘役に『グエムル』のコ・アソンが成長した姿で登場)、先頭からやってくる「首相」をティルダ・スウィントン、そしてエド・ハリスという豪華なキャスト。
個々のキャラクターはさすがグラフィックノベル原作だけあってそれぞれ尖った人物設定で、メリハリも充分。

列車の設定はゴミ溜めそのものの最後部から徐々に階級が上がるほどに高級感を増し、まるでおとぎ話のようにさまざま車輛に舞台を移していく様子は、そのまま世界の縮図といったところ。
列車を遡行するにつれ別世界を覗くことに・・・このあたりの展開は『地獄の黙示録』的な様相といえますが、ここは実際に観てそのバリエーションとそれぞれの車輌で起こるイベントを楽しんで欲しいと思います。

ウィルフォードの居るはずの先頭に近づくにつれて列車の運行の驚くべき事実が明らかになっていくのですが、『〇ト〇ックス』っぽかったり、不死身のクリス・エヴァンスがキリコ・キュービイっぽかったりするところもあるものの、この世界に浸るのに充分魅力的な展開といえます。

そしてラスボスとしてのウィルフォードとの対峙・・・過去作へのオマージュが想像できるとその展開も大凡分かっちゃいるけど、やはりここがこの映画のキモ。
アクションとしての大団円をラストにもってきてメインのテーマが明らかになるところは、原作の魅力なのか、ポン・ジュノの脚色の手腕なのか、当初の疑念など吹っ飛んで映画に没入することができます。

『パラサイト』で上下だった格差のメタファーを、本作では90度横倒しされた前後の関係としつつ、監督の社会的格差に対する確固とした姿勢は両者に共通するところです。
本作では更に環境問題に対するテーマも重なり、娯楽作品として充分楽しめる作品に無理なく大きなテーマを多重に織り込む贅沢さが光る作品だったと思います。
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