Jeffrey

刺青のJeffreyのレビュー・感想・評価

刺青(1966年製作の映画)
3.5
「刺青」

冒頭、とあるの夜。着物姿の女と彫り師。質屋の娘、駆け落ち、店に出入りする船宿の主人。札付きの悪党、殺人、企み、刺青師、白い肌、彫る欲望。今、女郎蜘蛛の仕掛けた蜘蛛の巣に嵌る男の苦しみが始まる…本作は谷崎潤一郎の代表作「刺青」と「お艶殺し」を元に新藤兼人が脚色し、増村保造が監督した1966年の文芸映画の傑作で、この度4Kデジタル修復版BDが角川から発売され再鑑賞したが、面白い。やはり宮川一夫の撮影の流暢なカメラワークが居心地良く、美しいものを捉えるのには絶品である。そして妖艶な若尾文子の美しさは恍惚だ。

文豪 谷崎潤一郎の処女作として有名なこの作品を妖しく美しく、淫らに描いた増村監督と若尾文子の絶対コンビは揺るぎない作品を世に送り出してくれる。官能映画好きにはオススメしたいものだ。それと残忍な結末を迎える作品が好きな人にもオススメできる。やはり、この作品の画期的なところは江戸時代を背景に人間性を問う所だろう。確か、この作品で監督とは若尾は12作目のタッグだったような気がする。そして彼女自身時代劇の主演を演じるのは約2年ぶりだったとの記憶をしている。




本作は冒頭から引き込まれる。着物姿の若尾文子を演じるお艶が赤帯で縛られている。そこに男が彼女の体に触り、液体を垂らした布を嗅がせて眠らせる。続いて彼女の着物を脱がして美しい背中に彫り物を入れる。痛みに耐える女、鏑木創の恐ろしい音楽と共に墨を体に彫る男。続いて雪降る野外の描写へ。素足で雪積もる橋を傘を刺し歩くお艶。駆け落ちを匿ってくれる男の場所へ数日間いく。軈て、芸者に売り飛ばされるお艶の人生が変わって行く…



さて、物語は質屋の娘お艶は恋をしている。新助を部屋へ呼び、約束通り駆け落ちをする支度を始めていた。そして雪降る大川を渡り、2人は欲望のまま愛し合う。そして数日後にかくまってくれていた男も一応悪党と言うことで、彼女を芸者に売り飛ばし、その男は親元に行き、小金を巻き上げる最低なことをする。そして新助も殺そうと企む。軈て、1人の刺青師に目をつけられた彼女は縛られ麻酔薬を嗅がされ眠らされてしまう。その刺青師の名前は清吉。彼は彼女の真っ白い肌に女郎蜘蛛の刺青を彫り始める。

そして女が痛み苦しむその体をぐねぐねと動かし、まるで蜘蛛が動いてる様に見える。そしてその女は蜘蛛に取り憑かれたかの様に男を惑わし狂わせていく。やがて殺人が起こり女も殺されかける…そして、清吉がお艶に刃を向ける…と簡単に説明するとこんな感じで、絢爛な悪魔の世界を描いた時代劇ものである。

お艶が橋から飛び降りようとする外のシークエンスの美しさはものすごく印象的だ。流石は宮川一夫といったところか。この映画とにかく超絶映像がかっこいい。外から動く被写体を捉えるカメラはもちろんの事、雪や雨の自然を小さな窓から映し出し、そこにで若尾文子を覗くように捉えているのが画期的。特に雨の中での男同士の壮絶な戦い(殺人)のカメラアングルやカットバックが凄い。そして湯船で体を洗う若尾の背中のショットが魅力的。エロチシズムと言えば鍵、卍と有名だが、本作もかなり魔性の女が現れる。


シーンごとに背中の女郎蜘蛛が薄かったり濃かったりしているので撮影時間によるものだと思うが少し気になる。かくして、この作品はストーリーはまあまあ退屈な部分もあるが、なんといってもワンショットの印象がすごく綺麗でそういった画を好む映画好きな人にはぜひオススメしたい。正直、物語は退屈である。かといってつまらないと言うわけではなく普通に面白いと思う。
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