マリオン

永遠の0のマリオンのレビュー・感想・評価

永遠の0(2013年製作の映画)
2.5
特攻で戦死した自分達の本当の祖父に迫る百田尚樹の大ベストセラーの映画化。戦争という悲惨で激動な時代を生きた祖父の生涯から知っていくといういい話ではあるのだが、演出が異常にくどくて一本調子だったり、戦争に対しては否定する立場っぽいのに特攻に対しては美化に仕立て上げるようと見える場面ではものすごく違和感を覚えた。

まずこの映画で胸を打たれたのが主人公達の本当の祖父、宮部久蔵のその価値観だろうか。様々な人が語る宮部久蔵という男は戦時中の人とは違い、現代人らしい考え方をしている男だと感じた。「お国のために死ぬ」という信念のもとで誰もが動いていた時代に彼だけは、自分の家族のために生き抜くこと、未来を託す若者に対しても生き抜いてほしいと願う男だった。他のみんなと違う信念を持ち続けるというのは本当に強い男だったのだろうと思う。そんな彼が絶望に転じた顔を見せたときは本当に苦しい思いを味わった。それでも彼の生き様に最後まで感動させられる。それを語る当時を知る者達の想いも合わさって余計に感動させられるのだ。また脚本もおおむねよくまとまっていると思った。宮部久蔵を知る者達への取材形式を取って彼の生涯を徐々に明らかにしていくミステリー構造は物語を惹きつける。

だが正直言うと架空の美談である部分が強すぎて嘘くさくも感じる。もちろん仲間達はバンバン死んでいき、戦争に対する肯定はしていない。戦争を風化させないこと生きることに真摯に向かい合っているとも思う。だがそんな真摯さをぶち壊すシーンが存在する。主人公が祖父の本当の姿を知りつつある中で友人達とコンパに参加するシーンだ。心無い若者、戦争に無関心な若者を悪として描き、「無差別テロと特攻は同じでしょ?」という友人達に主人公が激怒するのだ。確かに何事も無関心なのはよくないことだが戦争の悲惨さを伝えるべき人は若者であるはずなのにそれを悪として描くとは何か偏見を感じた。また特攻と無差別テロは違うと言うが本当だろうか?どちらも何かの信念の下自分の命を賭して多くの命を奪い去っていくもので、明確な目標があるか無差別かで分けられることではないと思う。これでは特攻の美化につながってしまって真摯に伝えていたテーマを台無しにしていると思った。

そして山崎貴の演出がこれでもかと泣かせようとするあまりすべてが一本調子でくどい。スコアに関しても特にアレンジも見受けられないようなメロディを戦闘のたびに流し続け、祖父の話を聞くたびに大泣きする三浦春馬のオーバーアクトで溜めも一切ない。ラストには戦争を知る者がカメラ目線でセリフを繋ぎ、主人公が見上げた空に宮部久蔵が乗る零戦が大きく横切るというものすごくチープで嘘くさい過剰な演出をする始末でもうウンザリだ。ただ最初と最後を繋ぐ構造はなかなか分かっているなとも思った。戦闘描写もなかなか頑張っていたが時々嘘くさいCGっぽさ全開な部分がありこういうのも含めて結局この物語は架空だったと強調されるように感じた。

ただ役者陣の演技は山崎貴監督作品にしてはなかなか上質なものが見れたと思う。岡田准一の信念を通した顔と戦争に疲弊した表情の使い分けや夏八木勲や橋爪功などのベテラン勢から新井浩文や染谷将太などの若手までかなりの演技派が揃っていてすごく見ごたえがあったと思う。

戦争はいけないことでそれを伝えていかなければならないことは改めて思うことができたが、やはり嘘くさい美談でしかないと感じてしまう。ハート・ロッカーやフューリーなどの戦争映画を見た方がまだマシだと思った。
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