せーじ

永遠の0のせーじのレビュー・感想・評価

永遠の0(2013年製作の映画)
2.0
202本目。
8月なので、何か戦争にまつわる作品が観たいなと思い、選んだ作品。
ちょうど監督の最新作である「アルキメデスの大戦」が公開されているというのもあり、予習も含めて選んだ次第。
ちなみに原作は未読。





う~ん、なんだかよくわからない作品でした。
これって、感動できる話なのか?むしろイヤな話じゃないのかこれ…?と思ってしまいました。

(今回は、ネタバレを配慮せずに書いていきたいと思います。読みたくない方は、※※※と記されているところまで読み飛ばして下さい)


まず思ったのが「妻子を想うがあまり死ぬことを恐れ、戦場でも逃げ回る凄腕の飛行機乗り」というそもそもの主人公の設定自体に無理があるのではないだろうか、ということでした。
これは逆に言うと「主人公以外は皆、死ぬことを全く恐れずに戦っていた」ということになるとも言えると思うのですが、そんな訳はないですよね。「皆、死ぬことは怖かったし、妻子や家族のもとに帰りたかったが、その気持ちを必死に押し殺しながら戦っていた」くらいが、今残っている多くの体験談やエピソードから推察される"本当のところ"だったのではないでしょうか。だとしたら、軍規以前にそんなことを主人公は公言できるはずが無いと思うのです。だって何故なら、目の前で共に戦っている戦友たち「も」表に出さないだけで主人公と全く同じ考え方を抱いているのですから。自分が主人公の立場だったら、そこで彼らに申し訳ないと思ってしまうはずです。
その後主人公は、海軍航空隊の教官になるのですが、そこで彼は教え子を特攻任務から守ろうとして、意図的に評価をつけなくしようとします。そこでも違和感を感じました。「自分の教え子だけを守ろうとするのって、傲慢な考え方なんじゃないのか?」と。また、海軍の中での人間関係や規律、もっと言えばあったと言われるいじめや体罰などの描写が描かれていないというのも、違和感を覚えました。作劇上の問題だからと言われればそれまでなのですが、あまりに記号的に組織を描きすぎているように思います。
そして残念ながら主人公の抵抗もむなしく、教え子達は特攻をしていき、彼はむざむざとそれを見送ることになった末に、ついには彼自身も特攻隊として身を捨てることを選ぶのですが、そこでどのように考えて主人公がそう決めたのかがすっぽりと抜け落ちてしまっているのが、理解できませんでした。「どんなことをしても生きのびることを考えろ」と部下に怒鳴りつけていた男が、です。しかし、妻との約束が果たせないと考えた主人公は、教え子の一人と搭乗機を入れ替わることによって、特攻とそれを両立しようとします。なんだそれ…と思ってしまいました。冷静に考えると、どれだけ身勝手なんだ主人公は…と思ってしまいます。
その後、教え子の彼が主人公の妻を探し当てて…というくだりには、ありえなさ過ぎてゲンナリとしてしまいました。
それもこれもすべて「主人公は、生命を惜しまずに戦っていたわけではなく、残した家族を心から愛しており、しかし共に亡くなった者たちや家族のことを想いながら特攻に参加した」という最終的な着地に落とし込むために用意されたものとしか思えませんでした。


※※※


そもそも大前提の話として「特攻」という戦法は、非人道的な「作戦」とも呼べない愚かな行為であり、日本という国は七十数年前にそんな酷いことを一般市民ひとりひとりにまで強いていたわけですが、そのことそのものについての"罪"と「でもそれに参加した人ひとりひとりに罪があるわけではないよね」ということをこの作品では完全に混ぜてしまっている様に思います。国家体制がそうだった、そういうことに従わざるを得なかったということをうまぁく見せないまま「特攻」を美化しようとしていて、そこに物凄く違和感と不快感を覚えました。感動できる話っぽく描かれていますが、そうではないはずです。彼らも被害者だったはずなのです。そして、そんな被害者を生んでしまったこの国は明らかに「加害者」であるはずですし、そもそも自分の国の国民を使って他の国と戦争をするという決断をしてしまったという意味でも「加害者」であるとも言えるはずなのです。
そういう視点が全く見えなかったのが、つくづく残念でした。

戦争が罪深い理由のひとつとして、国と国同士の政治的な不手際を、無辜の国民一人一人が尻ぬぐいせざるを得ないところ、つまり「お国の為」というロジックを使って勝手に共犯関係を持ち掛け、国民一人一人に我慢をさせ、犠牲にしてきたところ…だと自分は思っているのですが、それを全く描いていない様に思います。(もちろんそれはこの国だけの、その時代だけの話ではありません)

最後に、この作品よりも遥かにずっと当時の彼らの心情を表していると思う、ある映画のセリフを引用したいと思います。

「わしは英霊呼ばわりは勘弁じゃけぇ、わしを思い出すなら笑うて思い出してくれ。お前だけは、最後までこの世界でまともでおってくれ」
せーじ

せーじ