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リアル 完全なる首長竜の日のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.7
 淳美(綾瀬はるか)は多忙な漫画家だったが、締め切りのストレスで自殺を図り、一命を取り留めたものの昏睡状態となる。彼女と幼い頃から一緒に過ごし、いつしか恋人となった浩市(佐藤健)でも淳美が自殺を図った理由がわからない。彼女を救うために、浩市はセンシングと呼ばれる眠り続ける患者と意思疎通ができる手法を用い、淳美の意識内へ潜り込む。センシングを繰り返すうち、浩市の脳と淳美の意識が混線するようになり、二人は現実と仮想が入り乱れる意識の迷宮を彷徨う。そして二人がかつて過ごした飛古根島へ向かった浩市は、記憶を封印していた15年前の事件に触れる。今作は意識の中で、あちら側からこちら側の世界へとパートナーを取り戻す果てしない実験である。浩市は淳美の意識下で現実には出来なかった真面目な話を淳美に持ちかける。ここでの淳美は黙々と漫画を描き続けていて、90年代の黒沢映画で立て続けに出て来た夫婦の会話に似た雰囲気さえ醸し出す。浩市はそんな妻の態度を見て、漫画を描くのを止めさせようとするが、淳美は聞き入れようとしない。それどころか自分の意識の醒めないうちに、気前良く代理執筆し、勝手に物事を進めようとする編集部の態度に怒りをぶつけるのである。

 実体のない銃を持ち、彼らを意識の中で殺める様子はデヴィッド・クローネンバーグの影響が垣間見える。そんな淳美の怒りが乗り移ったかのように、浩市は拳銃を握るが、放った銃弾はオダギリジョーにも染谷将太にも決して当たることなくその場に落ちる。海の中に浮かぶ遊泳禁止の赤い旗は、唐突にこの世とあの世、こちらの世界とあちらの世界との境界線として登場する。15年前の苦い思い出が2人の記憶の中でフラッシュ・バックし、1頭の首長竜のイラストとして丸く収めたかのように見えた子供じみた願いは、身勝手過ぎて反故となる。15年前の苦い思いという設定は、『叫』や『贖罪』と同様である。過去の念がつまった死者が化けて出ると言えば、『LOFT』もそうである。これまで何度も主人公の姿を一定の離れた距離で見つめていた幽霊が、今作でも少年や首長竜の身体をもって立ち現れる。浩市がボートに乗り、ここではないどこかへと旅に出ようとする場面は、この世ではないあの世へと旅立とうすることと同義である。再度のセンシングで彼を連れ戻そうと躍起になった淳美は、門の外側から再び内側へ浩市を連れ戻すことに成功する。その後も首長竜になった少年の霊は執拗に浩市の足を絡め取ろうとする。そのことは今回の事件の発端になった浩市の自殺の意図さえも明らかにする。
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