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正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官のpongo007のレビュー・感想・評価

5.0
 米国の入管行政に携わる人たちと、移民たちのドラマ。豊かな暮らしや自由、平等を得られると信じて、国境を越えてくるラテンアメリカ、中東、アジア、オーストラリア、様々な国からきた人たちは、肌の色や人種、宗教、イデオロギーの違いにより、様々な形で、白人のための米国で差別を受け、傷ついていきます。

 不法移民取り締まりの最前線にいるのが、入管職員役のハリソンフォード。自分がしている仕事に疑問を感じつつ、職務をしていきます。

 どこの国でもそうですが、一口に不法滞在や不法入国といっても、個別のケースを見ると千差万別で、一概にすべてが悪ということはできません。人身売買の被害に巻き込まれたり、内戦や迫害のための難民申請や政治亡命であったりさまざまで、ケースごとに血の通った判断が必要です。

 そのときの経済状況がよければ合法、悪くなったら不法にするという具合に、国家が恣意的に判断することもしばしばあり、高度に難しい人権上の問題をはらんでいます。日本でも、バブル期には不法滞在の外国人を労働力として政府が黙認していましたが、バブルがはじけると、日本人の雇用が奪われると、一気に”不法滞在”として取り締まりを強化しました。日本で「外国人は雇用の調整弁」と言われる所以で、”不法”移民の問題ははるか昔から日本に存在し続けています。

 日本の入管当局によって、日本に溶け込んで住んでいる善良な外国人一家が分断されていく多くのケースを僕自身見てきました。

 米国も同様。ハリソンフォード演じる入管職員は、そういった現状を長年みてきて、悩んでいます。米墨国境を越えようとして、力尽きて命を落とすメキシコ人、イスラム原理主義者の主張にも耳を傾けるべきだと発言しただけで、本国に強制送還させられる中東系の女子高生、グリーンカードを得るために、入管幹部に体を売ってしまうオーストラリア人、みんなが傷ついていきます。

 ヤクザみたいな大統領の下、中南米からの移民を厳しく取り締まったり、移民で成り立つ国家のイデオロギーの根幹をなす出生地主義を見直そうとしたりしている、いまの米国の現状をよくとらえた作品で、心が傷みました。

 だいたい、米国の領土は、もともと帝国主義戦争でネイティブの人たちやメキシコなど他国から奪ったものがほとんど。ワスプが支配層になって、国を運営していること自体に大きな憤りを感じます。米国が分断されているのも、こうした、支配、被支配層のイデオロギー対立や、移民に対する考え方の違いが根底にあるはずです。

 この映画を見ると、差別、偏見、国家、移民、人種、宗教などについて深く考えさせられます。
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