ねこたす

映画「立候補」のねこたすのレビュー・感想・評価

映画「立候補」(2013年製作の映画)
5.0
なぜこの映画をこのタイミングで見返して、レビューを書くのか。
それは本日をもって25歳になったから。
つまり、あれだけ欲しかった被選挙権が自分にも付与されたのだ。そんな今日見た気持ちを残しておきたい。

2011年の大阪府知事選を追ったドキュメンタリー。前半は出てくるワードで場面を飛び回りながら、一人の候補「マック赤坂」に迫っていく。

2007年の都知事選の選挙広報で話題になった外山恒一。彼はネットの影響で全てがネタになると危惧していたが、自分も当時ネタとして楽しんでいた一人だ。
「選挙じゃ何も変わらない」、「多数派は敵だ」、「じゃあ何故立候補するのか」と訴える外山。
彼自身も傑作と評する演説を、上手い場面で挿入する監督の手腕。実は大学に一度講演会で呼ばれたことがあって話を生で聞いたことがあるが、意外に普通のおじさんなのだ。

その問いかけから、府知事選立候補届け出のシーンに移る。本作は選挙としてのドキュメンタリーとしても良くできている。雰囲気、空気感をフィルムに収めている。

その後挿入される、選挙ポスターには3人分しか貼られていない。おそらく泡沫候補には金も人員も足りないのだろう。
演説に通りかかった外国人が、4人目の候補がいたと驚くのも無理はない。

マック赤坂も選挙長に、これは不公平ではないか?とメディアの扱いについて問いかける。同じ供託金300万円を払いながら、主な候補とその他の候補に分けられる。
このシーンも、マック赤坂が急に詰め寄るものだから、カメラが慌ててその画を撮ろうとする。ドキュメンタリーの醍醐味だ。

中心たるマック赤坂以外の3候補についても、取材を試みる。
なぜ、立候補するのか。普通の人は道楽だとか、何かやりたいことがあるのでは?と考える。普通に生きていたら表には出てこない、知るはずもない理由をこの映画では記録している。

4番目を目指す人。仲間を集めたい人。少しずつ領土を拡大しようとする男。

街頭で演説していると(正確には演説ではない)、何十年かぶりに同窓生と鉢合わせる。
そんな偶然に対して、「300万円の値打ちがあったでしょ?」とカメラに語り掛ける彼の嬉しそうな顔。

選挙権の無い、あいりんの人。主張には耳を貸さないが、歌と踊りにはカメラを向ける聴衆。案外普通の光景のようだが、マック赤坂を主人公に捉えたこのドキュメンタリーの眼差しを通し、何かおかしくないか?と少しずつ疑問に思えてくる。

大した主張のないような彼らが、なぜあのような戦いをするのか。その理由もそれとなく語られていく。
勝てないと分かっている相手と戦う時、いかに戦うべきか。
先日、映画バクマンが公開されたが、あちらとも通ずる。

常識で考えればおかしいようなことも、マック赤坂は平気で行っていく。なぜなら、法律に書いてあることを守っているから。画面ではおかしいことが起こっているはずなのに、彼の口から出る"公職選挙法"の一言で、こちらが責められている感じだ。
それと対比するように、「市民を守れ」と訴える市民デモが警察に守られて行われるのに、マック赤坂は警察や公安から怪しまれる。何が正しいのだろうか。

それでも、良い部分だけでなく悪い部分も同時に流すところで、価値観が揺さぶられる。

そして、いよいよ最終決戦。
大ボスたる"あいつら"が登場する。
映画300ですら絶望的なのに、囲まれるマック赤坂陣営をなんと評すればよいのか。巨像と蟻どころではない。鯨とミジンコぐらいの差だ。
同じ300万円を払いながら、自分はその大観衆に向けて演説することすら許されない。なんということだろう。
マック赤坂はひるまない。
そして、奇跡の瞬間がやってくる。
声を枯らす一方と、鬼殺しを飲むこちら。これまたとんでもないコントラストだ。


この映画はもう一つの視点がある。家族だ。
マック赤坂の息子の、親とのギャップ。
櫻井秘書の家族と子供。娘の為に立候補する候補。

人は守るものが出来たら、無謀な闘いをやめるのだろうか。
いや、守るものの為に無謀な闘いに挑むものではないか?


そして、ラスボスとの決戦。
どんな映画よりも絶望的だ。生き残れるはずはない。
その最中、飛び交う罵声が一人を動かした。
その感動的なクライマックスに、ただただ涙するしかない。
監督はその場にいて、よくカメラを回していた。素晴らしい。
これは実際に映画を見て体感してもらいたい。

彼らの敗戦に何か意味はあったのだろうか。
見えるような爪痕なんて一つも残せていない。
それでも、マック赤坂が訴え続けた"スマイル"が表れるその瞬間、ああ無駄ではなかったと安心できる。


戦わないくせに、戦う人を笑うことなんて許されない。
負けると分かっていても、戦わなきゃいけない場面なんていくらでもあるはずだ。そんな泡沫候補の一人でもある監督の熱いメッセージをぶつけられた。

やっぱり自分も一度は選挙に出よう。この映画に背中を押してもらえた。