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わたしはロランスのぴのしたのレビュー・感想・評価

わたしはロランス(2012年製作の映画)
3.8
グザヴィエ・ドラン監督作品。『マイ・マザー』の頃と比べて映像へのこだわりが格段に増している。映像の一瞬一瞬どこを切り取っても絵になる、圧倒的な美意識。キューブリックもびっくりするレベル。

これは性同一性障害をテーマにした映画で、女になりたい主人公のロランスと、恋人のフレッド(女性)との関係を描いた物語。ロランスのカミングアウトに戸惑っていたフレッドは、それでもロランスを愛すと決めて支えようとするのだが…。

物語の結末としては、結局女として生きたいロランスと、ロランスのことは好きだけど男として愛したいフレッドはかみ合わず、何度か歩み寄るも別々の道を行くことになる。

ドランの映画はそういった意味では、「わかりやすいハッピーエンド」は少ない印象を受ける。でも必ずしもバッドエンドというわけではないのだ。映画的なハッピーエンドは確かにない、でもだからこそたまに映し出される刹那的な幸せな瞬間がとてつもなく美しく見えてくる。「最後はうまくいかないんだろうな…」という予感を(登場人物も観客も)隠し持ったまま、今の幸せを噛みしめる。

そしてそこの映し方がまた本当に凝っていて、PVも顔負けの美しさ。例えば『mommy』の両手を広げて画面が広がるシーンや、この映画なら2人が再開して逃避行に出るシーンなど。こういうシーンがグッとくるのは、単に映像が素晴らしいからというだけでなく、この幸せが刹那的なものであると心のどこかで感じてるからかもしれない。

この映画はどこを切り取っても絵になる映画なんだけど、特に手持ちカメラへのこだわりをすごく感じた。全体的に緊張感のあるシーンは手持ちカメラが多いんだけど、ロランスの見ている光景をアップでテンポよく切り替える時とかに多用されてて、奇怪の目で見られるロランスの心情を観客が疑似体験できるような仕掛けになっている。

音楽との噛み合わせも最高で、ロランスが初めて女装して学校に行くシーン(ロランスは学校の教師である)、周りの目を気にせず堂々と歩くシーンなんかは音楽と構図とが合わさって本当にカッコいい。

音楽との噛み合わせでいけば、ロランスが洗車中の車の中でフレッドに性同一性障害を告白するシーンなんかも圧巻で、洗車のブラシがせわしく動く中、ラジオからは大音量の交響曲が流れ、お互いの心が激しく動く様が伝わる。

2人の決別のシーン、カフェでロランスが「お会計で」っていうところもとてつもない凝りようで、その「お会計で」っていう言葉をあらゆる角度から撮って何度も繰り返す。その言葉が2人の終わりを意味していて、その瞬間が2人にとってとてつもなく重く、長い一瞬に感じられたことが感覚的に観客に響く。

ドラン映画がドラン映画らしく確立した1つの金字塔とも言える作品。