MasaichiYaguchi

31年目の夫婦げんかのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

31年目の夫婦げんか(2012年製作の映画)
3.5
とても身につまされる映画だ。
映画の後半で、主人公たちをカウンセリングしているバーナード・フェルド医師が、夫のアーノルドに問い掛ける言葉がある。
「あなたは全力を尽くしていますか?」
洋の東西を問わず、既婚男性で自信を持って「はい」とか、「イエス」と答えられる人がどれだけいるだろうか?
この作品の主人公夫妻程には私の結婚生活は長くはないが、家庭状況というか、夫婦間の空気というか、雰囲気は似通っているので、映画の冒頭から共感を持って観てしまった。
「熟年夫婦の危機」が叫ばれて久しいので、作品のテーマとしては目新しくはないが、メリル・ストリープとトミー・リー・ジョーンズというハリウッドを代表する演技巧者によって紡がれる夫婦ドラマは、心の深いところまで響いてくる。
作品で描かれた結婚31年目にして夫婦関係を見直すドラマは、上辺を繕って円満夫婦を演じ続けている人々にとって、カルチャーショックに近いものがあると思う。
だから妻のケイが二人でカウンセリングを受けたいと申し出た当初、夫のアーノルドが「何を今更!」とか、「何も問題が無いのに、わざわざ波風立てることをしなくても良いじゃないか」とぼやく気持ちは良く分かる。
このトミー・リー・ジョーンズ演じるアーノルドは、アメリカだけでなく日本でも、それこそ何処にでもいるお父さんだと思う。
私から見て、彼はサラリーマンとして、家庭人としても立派な方だと思う。
それでも妻からすると、「釣った魚には餌はいらないのか!」という思いはあるのかもしれない。
世の既婚女性の全てが、メリル・ストリープ演じる妻のケイと同じことを望んでいるとは思わないが、自分の結婚生活として、そして女として自分の立場を考えた時、共感する既婚女性は多いのではないだろうか。
スティーヴ・カレル演じるバーナード・フェルド医師による「荒療治」は、この夫妻を揺さぶり、上辺で繕っていた結婚生活を根底から見直させることになる。
この「荒療治」で剥がされた「仮面」の内側にあったもの、そして彼らが最後に見出したものは何だったのか?
熟年の既婚女性は笑って手をたたき、一方連れ合いの男性がその内容に慄きそうな本作は、最後に優しさと希望を与えてくれます。
それにしても、アーノルドの勇気と愛情溢れる行動には頭が下がるばかりです。