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ムード・インディゴ うたかたの日々のNMのレビュー・感想・評価

4.0
知らずに見始めたらヴィアンの『うたかたの日々』が原作。
よく見たらサブタイトルに書いてあった。

これを原作にした作品は様々にあるが、原作を台無しにしていないか不安に思った。原作ファンはみな考えることだろう。だが、個人的にはそれは杞憂であり、むしろ大変好みの作品であった。

あらすじは原作ほぼそのまま。各所の演出はオリジナルのものも加えられている。

世界観はファンタジックではあるが、ヴィアンワールド・ゴンドリーワールドとしか言いようのない、他のどれとも違うもの。
ストーリー自体はハッピーなだけではない。

これを観て『うたかたの日々』がとてもフランス風であることを改めて感じた。上手く言えないが、テーブルの食事を一気に床に落としてから次のデザートを乗せたり、「何て素晴らしい木だろう、切ろう!」といったセリフややりとりは非常にフランスらしいと感じた。

現実離れしているところがちょっと『アメリ』っぽいなと思っていたらトトゥが登場して、なるほどという感じ。
彼女以上にこの作品が似合う女優はなかなかいないだろう。

前半はまさに夢を見ているような雰囲気、メリーゴーラウンド。ネガティヴな要素が一切なく、世界がまるで完全かのよう。

かと言ってそれが空虚で意味がないかと言うとそんなこともなく、むしろ現実世界を改めて捉え直すきっかけにもなりそう。
場面がぽんぽん変わりゆっくり考える暇などないからその場では無理だが、前半を観たあたりで一旦休憩を挟むと、色々考えを巡らす余地がある。

恋ってそんなに理屈が必要だろうか。好きになるのに相手の詳細な情報が必要か。結婚するのに必ずしも入念な準備が必要なのか。雇い主と従業員の関係はそんなに厳しいルールで線引きが必要だろうか。仕事って本当にいつも苦しいものだろうか。どの仕事も意味があるものだろうか。
我々は時々物事を難しく考え過ぎているのではないか、と。

「何度でもやり直せる 成功するための時間は一生あるわ」

前半の明る過ぎる雰囲気は、後半の展開を心配させる。きっと何かよくないことが起こるであろう予感が漂う。

やがてカラフルな画面は一変、部屋は暗く小さくなってしまい、ついにモノクロになる。

個人的に、ドアベルがとてもうるさくまるでうざったい虫のように動き回るのに共感した。どちらもannoyingという点でヴィアンには同じカテゴリーに入るのだろう。

その他、座ろうとすると椅子が崩れてしまうシーンや、会社のドアが異常に大きく重くて開けづらい等、単にヘンテコなことが起こると言うより、現状や将来を暗喩するような演出も好み。

ニコラが終始とても良いキャラクターで救い。心配事で日に日に年齢が変わってしまう演出などからも人柄を感じる。話し方の品格が素晴らしい。

同じような物語を真似して書こうとしても難しい。
何気ないシーンだが、電車が発車した後に乗り込みまた降りる、という演出など、一体どうやって思いつくだろう。
この映画や小説が常識に囚われた一般人には作れない、素晴らしいものだと思った。

映画館や大画面で観たい作品。かわいいもの好きの人にも、フランス映画・文学好きの人にもお薦め。
しばらくして二度目に観たらまた数々の発見があった。またしばらくしたら観てみたい。前半のハッピーな部分だけ観て一旦止めようかとも思ったがそこからが止まらない。入り込んでしまい、観ながら他のことをしようと思わない映画だった。ずっと暗い曲で、最後に流れる優しい曲を聞くと一気に悲しさが襲ってくるという不思議な体験をした。
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