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野獣死すべしのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

野獣死すべし(1980年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

 少し前、角川春樹が監督した「愛情物語」を見たがタルすぎて途中で断念してしまった。アメリカン被れなバブリーさの大衆臭さと、妙なMV表現とが鼻についてしゃーないという。とはいえ、角川映画といえばひと時代築いたわけなので、なんとか見ようと決心。「時をかける少女」とかもそうだけど、映画として崩壊しちゃってるのが多い中、まぁ今作もその崩壊感が否めないし、上記のバブリー具合も感じる。その中でも一時輝きを見せるシーンもあり、それはやはり松田優作という怪物持っての力によってであるのだ(一貫性の無い脚本のせいか、演技は散漫になっていたが)。

 いくつかのシーンの光る描写。例えばサイレンサーで白昼堂々と人殺しをするシーン(おそらく本当に商店街でゲリラ的に撮った模様)。また例として外せないのが刑事と対面する電車内でのシーンだろう。伊達がロシアンルーレット式に銃を構えて撃つ。その間、伊達はリップヴァンウィンクルの物語を聞かせる。ここでもし銃が発砲されれば、物語は中断してしまう。刑事の死が物語の中断と結びつく。そうしたサスペンス、文字通り宙吊りにされてしまう感覚がここにはある。そして、最後まで物語は語られるも、最後の一発、「これで終わりって酒だ」の鬼気迫る表情と共に銃は発せられる。このシーンまでの人を食ったような口調が不意に変わり、力がこもるので、松田優作はやはり恐ろしいのである。そしてまた、こういうのはビビリ役あっての怖さだと「シャイニング」でも痛感したように、刑事役の室田日出男がいい演技してる(汗の流れるタイミングも神がかり的!)。しかし、急にドリフのコント終了時のテーマみたいな音楽が流れてきて以降は無茶苦茶になる笑。なんかもうシュールの次元に行ってしまう。

 ラスト、クラシックコンサートでどうやら俯いて寝ている伊達が映る。しかし彼が目覚めると周囲にいた観客たちはいなくなっている。その後、外に出ると妙にブロウアップされた画面で事件映像味を漂わせながらも、伊達は階段を降りる。すると彼は何者かに撃たれる。その後、画面は引いていくも周囲は包囲されてるわけでもなんでもないことがわかる。彼は何かに殺された、それが目視で確認できないとすれば、社会に殺されたと言えるのかもしれない。もしくは、彼は一線を超え、本当は人に囲まれているのにパラレルワールドにいるかのように他者を認識できなくなってしまったのかもしれない。ラストのカット、階段で一人見えない銃弾に仰け反る姿は白昼夢のようで素晴らしい(死んだ刑事の姿が映し出されるのはちょっと意味づけがすぎる気がしたので、ここでは排除して考えた)。
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