horahuki

MAMAのhorahukiのレビュー・感想・評価

MAMA(2013年製作の映画)
3.4
複雑に絡み合った二項対立の多重奏。

長年CM監督を務めてきたアンディムスキエティの初の単独長編。今まで見よう見ようと思いつつ見てなかったので、『イット』の予習で見てみました。

人里離れた山の中、たった2人きりで5年間を生き抜いた姉妹が長年の捜索の結果発見され、叔父とその同棲中の彼女に引き取られるところかろ物語が始まる。当然幼い2人だけで生き延びれたわけもなく、2人の世話をする「ママ」の存在があり、「ママ」が姉妹と叔父&彼女に大きな影響を与え始める。

不況と貧困を作品の根底に置き、貧困を受け入れられない弱さと、貧困でありながらも子どもを守り抜く強さを対比させ、血の繋がりという呪いを超えたところでの絆、そしてその心を通わせた結果としての絆の孕む怖さまで手を広げている。絆の怖さについてはあるいは救いとも取れるところがデルトロらしさだし、血縁に天秤を傾けることで一旦見放した不況と貧困を、ラストで急激に浮上させ此方と彼方の対比構造に盛り込み、複雑に入り組んだ二項対立の多重奏となっていくのが面白い。

その中で最も力を入れているのは母性の獲得。とはいえ母性と言ってしまっても良いのかは微妙なところ。絶対に母親になりたくないヒロインは彼氏のために渋々子どもたちの世話を引き受ける。でもその中で芽生え始める感情。血の繋がらない子どもの母親になるというわかりやすいものではなく、母親とはまた違った概念に基づいた関係が構築されて行くことで、血縁の有る無しといった良くある二項対立ではなく、血の繋がらない「母親」と母親ではない「何か」の対比にまで発展して行くのが新鮮。

凄くオーソドックスな物語に見えるけど、「お腹を痛める」という行為の神聖性を取っ払った先にスタート地点を置いて、そちらに一切言及せずに議論を展開するというのはかなり冒険してるような気がする。短編の『MAMA』は本作の中のシークエンスのひとつをシンプルにした感じだったけど、アレからここまで発展させるのが凄い。

ちなみに「ママ」を演じるのはヒョロいモンスターと言えばこの人なハビエルボテット。グニャグニャした独特の動きは流石のひとこと。『死霊館エンフィールド事件』の時もへそ曲がり男でとんでもない動きを見せてくれましたが、本作はハビエルボテットのためのクライマックスと言っても良いほど彼の独壇場となっている。

ただ、『イット』の時もそうだったんだけど、この監督の恐怖演出にはうまさをあんまり感じない。積み上げていくことを一切せずに単発のアイデアだけど何とかなると思ってるような気がする。カット割りのテンポを遅らすべきところで何も気にせずに次々切り替えをして行くから物凄く軽い。左右の空間を隔て別々の情報を配置し、リンクさせていくことで異常性を盛り上げる見せ方だったり、境界を意識した演出もあっただけに勿体ない印象。

11月1日は『イット』から見に行こうと思ってますが、『CLIMAX』の方は見るのが少し先になりそう…。でも、甲乙つけがたいくらい両方とも楽しみ!
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