ザ・レッド・チャペルの作品情報・感想・評価 - 2ページ目

「ザ・レッド・チャペル」に投稿された感想・評価

湯呑

湯呑の感想・評価

4.6
マッツ・ブリュガーは、ジャーナリストとして活動する傍ら過激な内容のドキュメンタリー映画を撮り続けている、デンマークのマイケル・ムーアとでも言うべき人物だ。その最新作である『THE MOLE(ザ・モール)』と、2010年のデビュー作『ザ・レッド・チャペル』が現在公開中である。この2作はいずれも北朝鮮への潜入取材を試みたドキュメンタリーであり、内容的にも深い繋がりがあるのでまとめて論じてみたい。
両作でブリュガーのとった手法は概ね同じである。まずは偽の経歴を持った人物を用意し、北朝鮮の高官にうま味のある話を持ち掛ける。首尾よく信用を勝ち得たら北朝鮮へ入国し、その立場を利用して堂々とカメラで撮影を行う。何かアクシデントが起きた場合は適当に嘘をついてごまかせばいい。要するに、ブリュガーの計画は行き当たりばったりで「電波少年」とそれほど変わらない。にもかかわらず、北朝鮮はブリュガーの嘘に二度も引っ掛かってしまうのである。
『ザ・レッド・チャペル』の顛末はこうだ。北朝鮮が文化交流の目的で他国からのアーティストを招待していたのを知ったブリュガーは、ジェイコブとサイモンという青年を雇い、即席のコメディアンに仕立て上げる。取柄と言えばギターを弾けるぐらいで、ずぶの素人に過ぎない2人に眼を付けたのにはブリュガーなりの理由があった。ひとつは、彼らが朝鮮系デンマーク人だった事である。海外で活躍するコメディアンが故郷に凱旋するにあたり、南ではなく北を選んだ事は北朝鮮の自尊心を満足させるだろう。更にもうひとつ、ジェイコブが脳性マヒを患っていた点だ。当時、北朝鮮には優生思想に基づく障害者への差別的政策が残っていると伝えられており、障害を持って生まれた子は殺されるという噂すらあった。脳性マヒであるジェイコブを温かく迎え入れる模様がメディアで伝えられれば、その噂を打ち消す格好のプロパガンダとなるに違いない。要するに、ブリュガーはジェイコブとサイモンの出自を餌に罠を掛けた訳だ。彼の目論見通り、北朝鮮はこの餌に食い付き、ブリュガーとジェイコブ、サイモンの3人は首尾よく北朝鮮への入国に成功する。
ただ、ひとつだけ懸念材料があった。ジェイコブとサイモンの芸のクオリティがめちゃくちゃ低かった事だ。一応、事前にプロのコメディアンに手ほどきは受けたもののいかんせん時間が足りず、とても人前に出せるものではない。忘年会の出し物としても怒られるレベルなのだ。北朝鮮の高官たちは大いに慌てる。この訳の分からない芸(?)をピョンヤンの国立劇場で披露しなければならないのだ。窮した彼らは、ブリュガーたちにおずおずと内容の修正を申し出る…この辺りのやり取りは非常に面白い。誰が見たってジェイコブとサイモンの芸はでたらめやっているだけなのに、デンマークの文化について無知な北朝鮮の高官たちはそれを文化的風土の違いだと思い込み、演者のプライドを傷つけない様に懸命に気を配っている。要するに、彼らは独裁体制下で洗脳教育を受けた権力の操り人形であると共に、他人に気を配る心を持ち合わせたひとりの人間でもあるのだ(もちろん、最終的に彼らはジェイコブたちのコントを遠慮なく作り替え、朝鮮半島統一のスローガンまで叫ばせるに至るのだが、それは彼らにとって素晴らしい芸術が、北朝鮮の独裁体制を賛美するものに限られていて、それ以外の価値観を持っていないからだ)。
従って、ブリュガーが仕掛けた壮大な「ドッキリ」に見事に引っ掛かる北朝鮮の人々に対して、ジェイコブが同情し疚しさを覚えるのも無理はない。特に、彼らの通訳として派遣された朴さんという女性は、ジェイコブを息子の様に可愛がり熱心に面倒を診る。その献身ぶりにブリュガーは薄気味悪さすら覚え、ジェイコブも息苦しさを感じるのだが、一体なぜ彼女がここまでジェイコブを可愛がったのか、最後までその理由は明かされない。先ほど述べた通り、脳性マヒの男に優しく接する姿を見せる事が国益にかなうと考えたのかもしれない。朴さんが上司からその様な指示を与えられていた可能性は高いだろう。しかし、計算ずくの嘘から始まった関係が、図らずも心と心の交流へと繋がっていく瞬間が人間にはある。だからこそ、ジェイコブは自らの嘘に耐えきれなくなり、ブリュガーに「あなたに良心の呵責はないのか」と迫るのだ。
しかし、ブリュガーはジェイコブの難詰に対し「良心の呵責などない」と一蹴する。北朝鮮は多くの国民を強制収容所送りにし、「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉で何十万、何百万人という国民を餓死させた殺人装置だ。従って、自分たちが同情する必要などない、と主張するのだ。要するに、ブリュガーは眼の前にいる人間の良心を疑い、己のイデオロギーだけを信じて行動している。従って、笑顔を浮かべて彼らを歓待する北朝鮮の少女たちの態度を全て演技だと断じてやまない。もちろん、そうなのだとは思う。北朝鮮の人々の貼りついた様な笑顔、一糸乱れぬ団体行動、金親子を称える言葉と流される涙に、私たちもまた薄気味悪さを感じる。生まれながらに自由意志を奪われ、権力の望む通り演じる事を強要された人々の、余りにも哀しい芝居。しかし、その奥底に密かに湛えられた生々しい感情がふとした瞬間に迸り、やがて溢れ出る。ジェイコブはそれを無視できず、ブリュガーは自らの使命の為に黙殺した。もちろん、これはどちらが正しい、という話ではない。しかし、この2人の立場の違いがラストシーンでの「決別」を準備する事になったのは間違いないだろう。ブリュガーにとって、ジェイコブはあまりにも人間的であり過ぎたのだ。彼の目的にかなう刺客が誕生するには、およそ10年後に作られる『THE MOLE(ザ・モール)』まで待たねばならない(続く)。
tatari

tatariの感想・評価

3.7
北朝鮮も監督もそれぞれの立場から障害者を利用してるけど、デンマーク語かつ言語障害がゆえに北朝鮮の厳しいマークをすり抜けるヤコブのぶっこみ発言がこの映画にスリルを与えるという妙。
 ほぼほぼ何も知らない状態でこの映画を見るために映画館へと入りましたが、映像の予算加減に比べてけっこう良かったと言うか、規模感が小さめな分逆に生々しさがありました。そこがこの映画の最も良かった所だと思います。

 普段北朝鮮を見る機会はありますが、それは割とメディアに関係する人物が作っていてそのフィルターがかかっていたり、元々ある程度その国に対して知識があり、その先入観があることが多いです。それらに対して、この映画に出てくる登場人物は何も知らない状態でこの国に触れてそれがどう思うかという生の雰囲気を感じているのを見ることが出来ました。

 また、大規模なメディアが相手じゃないからこそ、けっこう北朝鮮にいる一般人の素の様子を見ることが出来ていたなと感じられました。もちろん偉い人がいる時にはそれを隠している一方で、コメディアンである登場人物と絡んでいる時にはつい素が出てしまっている時があったり、表情が隠しきれていない時をカメラがしっかりととらえてしまっているシーンが度々あったので、その時にはかなり見ごたえがあるように感じました。

 ただ、映画の構成のされ方が悪いと感じることが度々あって、ドキュメンタリーなのにけっこう視聴者の思考を誘導しているように感じる時がちょいちょいありました。例えばこのキャラクターは本当の事を言っていると言ったりとか、あからさまに視聴者にここを見てくださいと言っているようなカメラワークがあってもっと自由に読者にありのままを伝える方がドキュメンタリーらしくなると思います。

 北朝鮮側を一方的に批判しているような感じの映画だったので、あまりいいドキュメンタリーではないように感じますが、それでもけっこう見どころがある作品だなと感じました。恐らく北朝鮮に詳しい人はあまり興味を惹かれないかもしれませんが、そうでなくてこの映画に興味を持った人はおすすめです。
監督マッツ・ブリュガーホントによくやるよ。ほめ言葉です。
先月見た"THE MOLE"(こっちが新しい)でも本人のナレーションからは深刻さは余り感じられないがハッキリ言って命がけの製作であることは間違いない。
北朝鮮に西側の映画事情に詳しい人間や監督をよく知っていたら目的を見透かされて刑務所行きだ。
北朝鮮が情報鎖国なためこの辺が疎くて騙されたんだろう。

最もこの映画の内容のせいで監督は北朝鮮を出入り禁止になり、自分は入国できずにTHE MOLEを製作したとか。
THE MOLEは北朝鮮からの架空の武器購入を企図して政府関係者をだましてコンタクトする話しで余計バレたらヤバいけど監督が同行してない。
本作の方は監督同行だからカメラを回している傍らで生の声が画面に出ている。

北朝鮮に対する敵愾心も相当強く北朝鮮の政治犯弾圧や障がい者への対応についてのコメントも厳しい。かなり熱いものが伝わってくる。
北朝鮮に障がい者が全く見られないことについてのまぁ、おそらく監督の言う通りなんだろうけど自分の目撃情報でもないことを決めつけている。

監督の目的を理解させまた監督に同意しているとはいえ脳性マヒであるヤコブにもしもの時、十分ケアできるかはなはだ疑問な北朝鮮へ連れて行くのはちょっとブリュガーも軽率で方法論として賛同しかねる部分もある。
北朝鮮を人道的に許せないと思っているブリュガーはやや感情的になっているのはマイナスだ。

印象的なシーンがあった。
ヤコブが自分たちに対する邪心のない子供たちの歓迎ぶりに心動かされ、彼等を騙して良心の呵責はないかとブリュガーに問う。
ブリュガーは全くないと即答する。
彼は手段を選ばず実態を知るためなら子供たちを騙そうがお構いなしだ。
無法地帯には正攻法では対応できず不道徳的手段もやむを得ないと割り切っているようだ。
ここは評価が分かれるかもしれない。
まぁだがそこまでしても入国して撮影したことはかなり意義あると思う。
本音(実態)を引き出すには相手を騙すしかない場合が多いのは民主主義や自由の国でも同じだ。
せめて若いヤコブやシモンに対して騙してでもやる意義を100%理解と共感を得てよりメンタルケアすることを期待したい。
ただ惜しむらくは、ヤコブのような社会的弱者が北朝鮮に見当たらないことを北朝鮮関係者にぶつけてどう説明するのか踏み込んでほしかった。
ブリュガーの考えてる北朝鮮における障がい者への対処を「一般市民」はおそらく知らないだろう。
交通事故などによる障がい者が存在しないことは社会情勢等であり得ても遺伝的疾患者が存在しないことは医学的にあり得ない。突然変異で発病することが北朝鮮にだけないことは物理的にないからだ。(個人的意見ではなく多くの遺伝学者の研究による知見から)
外見的に多様性のある人々がいない街の風景はぞっとする。
ブリュガーの怒りももっともな気がする。
こまつ

こまつの感想・評価

3.0

このレビューはネタバレを含みます

障害ということを逆手にとった設定が面白かった
朝鮮人の子供の芸能レベルすごいなって思ったけど確かに機械的で不気味だった
これを疑問に思っても収容されるだけだから脱北するしかないのかな
2人のコメディアンは芯を持っててカッコよく見えた
金正日が正しくて他が間違っているのかもって言葉は何にでも言えそう
自分の正解を見つけるしかない
そこに生きている人たちは何もわかってないのか、わかっていて生きてるのかによって変わるなって思った。
KYO

KYOの感想・評価

3.7
『THE MOLE』が面白かったので、2006年に撮影されたこちらも鑑賞。
マッツ・ブリュガー監督(良心の呵責ないとか色々ヤバい)は北朝鮮出禁になったが、ヤコブとシモンの身の安全も気になる。
特にヤコブが受けた心理的なストレスが心配。その後きちんとケアできたのだろうか。了承済みとはいえ彼が障害者であることを監督も利用したのだから。
障害を持って生まれた子供は殺される、地方に追放される、障害者は存在しないとされるなどと言われているが現状はどうなったのだろう。
通訳兼案内人(監視役)の女性・朴さんはじめ、最後まで本心がつかめず薄気味悪さがある。監督は北朝鮮の人々が発する言葉ではなく表情に注目みたいなことを最初に言っていたけど、日本人もそれに近いところあるなとふと思った。恐怖まではいかなくても空気を読んで長いものに巻かれた方が安泰、排除されないよう気を付け同調圧力に従うとか、行き過ぎると怖いなと。
Michelle

Michelleの感想・評価

3.8
「北朝鮮をロックした日」とちょっとかぶる。北朝鮮の人は脳性麻痺の人を見てどう思うんだろうか。エンディングのヤコブが歌ってた曲のタイトルをど忘れしてモヤモヤしているので誰か教えてください。ビートルズでしたっけ?
あっさ

あっさの感想・評価

3.3
222(121)
初期作なのもあり「誰がハマーショルドを殺したか」「The Mole」等と比べると色々粗さや行き当たりばったり感がある
カメラに映る誰もが過剰に善人のような振る舞いや笑顔を崩さず画一化された行動を取る様や、イデオロギーを示さないことを条件に提示した側から露骨な思想を加えてコントを自分たちのプロパガンダにしていく所から北朝鮮の性質が見えた
「良心の呵責はないのか?」って問いに「無いよ」と即答したりマッツ・ブリュガーは良くも悪くもやばい
ミルコ

ミルコの感想・評価

4.1
ハンディはあっても心と感性がまっすぐな青年と、北の子供たちの対比が、非常に見せ方が上手い。
より多くの人に見られたら良いと思う映画。
ワンダーウォール。

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